<東北の本棚>冬彩る神秘の自然現象
[レビュアー] 河北新報
「雪」がつくりだす不思議な現象を幾つ知っていますか。雪ひも。雪球。雪まくり。雪えくぼ。雪庇(せっぴ)-。語感から漂うイメージ通りに、カラー写真が写しだす自然の造形は極めてユニーク。しかも目で見て楽しむだけでなく、その現象が起こる仕組みも易しい説明文で知ることができる。児童書だが、大人が眺めて読んでも楽しい。
雪は気温が低いとサラサラと乾いているが、気温が高いと水分が多くなり、粘性を持つ。水が接着剤となって雪粒同士をくっつけるため、そこに風の力や重力の働きが加わると思いもかけない形が現れる。
顕微鏡写真で見る雪の結晶は宝石か工芸品のように精緻で美しい。地上に降るまでの間に通過した雲の中、刻々と変わる気温と湿度を反映し、二つとして同じ形は生まれない。「雪は天から送られた手紙である」。世界で初めて人工雪を作った物理学者の中谷宇吉郎が、こう表現したゆえんだ。
おなじみの軒先のつららがあれば、深山を分け入った先の滝が凍り付いた氷瀑(ひょうばく)も。「アイスモンスター」とも呼ばれる蔵王の樹氷はこの土地独自の光景だ。日本海を渡り朝日山地を越えて吹く冬の季節風と、零度以下の凍らない過冷却水滴、そして雪の共同作業でアオモリトドマツを装飾する。
雪かきや雪道の運転を考えると、冬の暮らしは正直少々めいる。でも本書にあるような雪本来の神秘の姿を知れば、北国ならではの彩りにいとおしさを覚える。
著者は1943年石巻市出身。子どものころ蔵王の樹氷に魅せられ、写真家を志した。巻末解説を担当した神田健三さんは48年喜多方市出身。2016年まで石川県加賀市の「中谷宇吉郎雪の科学館」館長。
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