vs.凄腕女性警察官――『あるミアタリの女監察の神』著者新刊エッセイ 弐藤水流

エッセイ

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あるミアタリの女 監察の神

『あるミアタリの女 監察の神』

著者
弐藤水流 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912024
発売日
2018/01/16
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

vs.凄腕女性警察官――『あるミアタリの女監察の神』著者新刊エッセイ 弐藤水流

[レビュアー] 弐藤水流(作家)

 本作『あるミアタリの女 監察の神(じん)』は、警察組織を舞台にした、二話からなる連作集です。主人公は、ベテラン監察係員の神(じん)と、彼のパートナーである西岡京子(にしおかきょうこ)。二人が所属する警視庁警務部監察係は、警察官の犯罪行為や服務規程違反を調査し、処分を検討する部署。俗に“警察の中の警察”と呼ばれ、組織内では恐れられる存在です。ところが神は、そうしたイメージからは程遠い、定年前の冴えないおじさんです。ポケットの中にはいつもお菓子を持ち歩き、くだらない冗談やお喋りが大好き。生真面目な京子は、開けっ広げな神の言動に、いつも振りまわされっぱなしです。

 そんな二人が本作で対峙するのは、罪を犯した女性警察官たちです。第一話「ある交渉人の女」では、“無血開城”を信条とする若き犯罪交渉人。第二話「あるミアタリの女」では“歩く顔貌(がんぼう)識別システム”と呼ばれる見当たり捜査の達人が登場します。専門的技能を有するがゆえに誇り高く、職務に忠実であろうとする彼女たち。しかし皮肉にも、そのことに足をすくわれ、彼女たちは法の一線を越えてしまいます。明晰な頭脳を持つ彼女たちの罪を、神と京子はどう立証するのか。そこが大きな読みどころです。

 ところで、この本には大きな工夫が二つあります。一つは「電子特典」。本をお買い上げの方にはもう一編、こども安全教室に心血を注ぐ交通課婦警との対決を描いた、第三話「ある腹話術の女」をウェブ上でお読みいただくことができます。そしてもう一つ。この本は四六判ソフトカバーでありながら、税込一〇八〇円というお手頃価格となっております。

 事件が解決したあと、神は彼女たちが抱える悲哀にそっと寄り添います。彼自身が監察の仕事に誇りを持っているからこそ、彼女たちの苦悩が誰より理解できるのかもしれません。

 推理と人間ドラマの融合。普段は警察モノに馴染みがないという女性の方も、この機会に是非ご一読ください。

光文社 小説宝石
2018年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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