『夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす』
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『夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす』池谷裕二著
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
エコなヒトの脳と「限界」
雨ニモマケズ/風ニモマケズ/(中略)慾(よく)ハナク/決シテ瞋(いか)ラズ/イツモシヅカニ……
「そういうものに私はなりたい」と宮沢賢治は願ったが、ヒトがそうなるのは大変だ。人類誕生以前から風雨に耐え、くよくよ悩まず、怒らずに生きてきた樹木は、賢治の理想に近い。
それではなぜ、樹木など脳のない生物だけが存在した時代の後に、神経細胞だけで860億個くらいあるとされる複雑な脳を持つヒトは誕生したのか。脳科学の研究成果をひもときながら高校生と対話する本書は、学習法や睡眠と忘却の効用など実用知識も披露しつつ、脳はなんのためにあるのか、という素朴な疑問を最後まで手放さない。そして、植物や動物、人工知能との差異、共通点に目配りし、たった一種の人類が、地球上のほぼすべての環境で適応することを可能にした脳の働きを具体的に示していく。
では、どうやって? それを示す問題です。
みさなん おはよういござます。
読んで誤字に気づいた人はいましたか? 「みなさん」が「みさなん」になるなど誤字だらけですが、気づかなかった人も多いでしょう。人は、過去の記憶から推測し、「思い込み」で判断するクセがあるからです。ただ、落胆するなかれ。人は、推測することで思考の負荷を軽減し、多様な現実に気楽に向き合える。ビッグデータ処理に莫大(ばくだい)な電力料金がかかるAIに比べてはるかにエコな存在なのだ。さらに脳には、推測が外れたら原因を知ろうとする好奇心と、新たな事象に対応する可塑性まである。
と、わかったように書評しているが、本書によると、認知力などに限界のある人間は、脳というフィルターを通してわかることしか理解できず、脳という内なる自然もヒトには容易にわかるものではないらしい。それでも身の程をわきまえず、“脳力”に自信満々の人は諦めずに頑張るから成長するという。だから……この書評も、これで良し、とすることにしようか。(講談社、2420円)