日々の営みの多様さを教えてくれる“家小説” 『パノララ』ほか

レビュー

5
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • パノララ
  • いい子は家で
  • ねたあとに

書籍情報:版元ドットコム

日々の営みの多様さを教えてくれる“家小説”

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 作中の建物が、強烈に印象に残る作品がある。柴崎友香の作品なら隣家に興味を示す女性が登場する芥川賞作『春の庭』(文藝春秋)や団地を舞台にした新作『千の扉』(中央公論新社)も該当するが、建物のヘンテコさでいえば『パノララ』だ。格安の家賃で友人・木村の実家に間借りすることになった田中真紀子。そこはコンクリートの三階建てに木造二階建てが接合され、横の鉄骨ガレージの上に赤い小屋が載った物件。その小屋が田中の新居だ。家では全裸が当たり前の父親、女優の母親、みな父親が違うという三人の子どもたち。不器用な田中とマイペースな木村家の人々は、交流を深めるうちに、他者との関係性を見直していく。

 不思議な出来事も起きるがSFではない。そこで示されるのは家族の形や我々の日常、時間や空間は曖昧で不安定なものだ、ということ。それを淡々・飄々と書いてのけているのが魅力。

 青木淳悟『いい子は家で』(ちくま文庫)に登場するのは、住宅街の一軒家。定年間近の父、息子たちの変化に敏感な母、会社を辞めて実家に戻ってきた兄、親に恋人の存在を隠す弟、という四人家族の生活が綴られる表題作、母親の日常を細やかに追う「ふるさと以外のことは知らない」、父と息子で過ごす時間を描く「市街地の家」などを収録。空間の中を自在に移動する視点がこの著者の持ち味で、読み進めるほどに家の間取りが立体的に浮かび上がる。現代の家族のありようを独自の角度で眺める一冊。

 長嶋有の作品では同じアパートの一室を舞台に、入居・退居した住人たちの暮らしを切り取る谷崎潤一郎賞受賞作『三の隣は五号室』(中央公論新社)が浮かぶが、『ねたあとに』(朝日文庫)も家を定点にした一作。作家のコモローと父親が毎夏、山荘に友人らを招いてオリジナルのゲームにいそしむ様子が描かれるなか、長押に電球が並ぶなど、謎の光景も。本人や家族にとっては当たり前の習慣も、他人の目には奇異に映る。日々の営みの多様さを教えてくれるのも、“家小説”の楽しさだ。

新潮社 週刊新潮
2018年2月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加