【文庫双六】西鶴好き富岡多恵子の乾いたユーモア――川本三郎

レビュー

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日本文学100年の名作第7巻1974-1983 公然の秘密

『日本文学100年の名作第7巻1974-1983 公然の秘密』

著者
池内 紀 [編集]/川本 三郎 [編集]/松田 哲夫 [編集]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101274386
発売日
2015/03/02
価格
869円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

西鶴好き富岡多恵子の乾いたユーモア

[レビュアー] 川本三郎(評論家)

【前回の文庫双六】吉行淳之介訳で読む『好色一代男』――野崎歓
https://www.bookbang.jp/review/article/547635

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 西鶴好きの現代作家は多いが、そのなかの一人に富岡多惠子がいる。

 同じ大阪出身。自分の出た桜塚高校の桜塚が西鶴の『好色一代男』にゆかりの地と知ったので親しみを覚えたと、大佛次郎賞を受賞した評伝『西鶴の感情』(講談社、04年)にある。

 富岡多惠子は詩人として出発し、のち小説に転じ、さらに評伝も手がけるようになった。多才。

 富岡多惠子の詩は若い頃から好きだった。ぶっきらぼうでおよそ感傷がない。乾いたユーモアがある。

 大学を卒業して新聞社に入り、週刊誌の記者になった。なんとか富岡多惠子に原稿を依頼したいが、週刊誌では機会がない。ようやく、ある時「フラワー・デザインがブーム」という小さな記事にコメントをもらうことを思いついた。

 無理かと思ったが取材に応じてくれ、丁寧に応対してくれた。

 もの書きになって文芸誌『海』に富岡多惠子論を書いた。無念なことにいい出来にはならなかったが。

 そのあと、ある映画をテーマに対談をした。気取らず、偉ぶらず、また時折りの皮肉も愉快で、いよいよファンになった。

 三年前、新潮文庫の『日本文学100年の名作』の選者をおおせつかった時、第7巻『公然の秘密』に富岡多惠子の短篇「動物の葬禮」を選んだ。

 大阪で指圧師をしている母親と、水商売をしているらしい娘の物語。知識人や中産階級を主人公にしないところが西鶴好きらしい。

 母親は指圧師といっても資格はないようだ。いわばもぐり。それでも評判はいい。娘は中卒。家を出て男と暮しているらしい。たまに家に戻って金をせびる。

 ある時、娘が突然、若い男の遺体を運び込む。「キリン」というあだ名の通りやせた男。それが癌になり「モヤシみたい」になって死んだ。娘が葬式をする。

 最後は母娘が取っ組みあいの喧嘩をする。動物のように。作者の乾いた筆致で、それがいっそ清々しい。

新潮社 週刊新潮
2018年2月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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