〈百物語〉シリーズ第一期 完結篇、宮部怪談の真骨頂!

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〈百物語〉シリーズ第一期 完結篇、宮部怪談の真骨頂!

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 宮部みゆきのライフワーク〈三島屋変調百物語〉の第五弾にして、シリーズ第一期の完結篇。本書で、百物語は二十七話まで進んだことになる。

 おちかが三島屋の黒白(こくびゃく)の間で客の話を聞く、というのは従来通り。が、今回からは、次の間に守り役として控えていた女中のお勝と三島屋の次男坊・富次郎のうち、後者が黒白の間でおちかとともに客の話を聞き、それにちなんだ絵を描いていくという趣向が加わる。

 巻頭の「開けずの間」は、焦燥と傷心、恥と嫉妬―それらの感情が渦巻く金物屋の出戻り娘が、橋の上で出会った“行き逢い神”を家に招じ入れ、契約をはじめたことから一家が根絶やしになるという陰惨極まりない物語。

 その“魔”の凄まじさは、次の間に控えていたお勝の髷の右側の鬢を白髪にし、抜け落ちるようにするほど。死んだ息子の復活を願っても望んだ通りのかたちでは戻ってこない等、名作怪談「猿の手」(W・W・ジェイコブズ)を思わせる箇所もある。

 これが〈悪意の怪談〉であるとすれば、次なる「だんまり姫」は、〈善意の怪談〉だ。

 亡者を起こす“もんも声”を持った女中が、生まれてから一度も声を発したことのない姫の声を取り戻し、城の中に虜となった跡取り一国様の霊を解放してやる話で、これぞ宮部怪談の真骨頂。

 そして、私が集中でいちばん気に入っている「面の家」を経て、表題作と「金目の猫」は、作品の面白さもさることながら、各々が見事に完結しつつ、やがてはじまるであろう第二期への伏線ともなっている物語である。特に表題作は、怪異を通して書物と人生を考える異色作といえよう。

 そもそも、おちかが百物語をはじめなければならなかったトラウマの解消と、新しいストーリーへの期待がここにはある。楽しみだ。

新潮社 週刊新潮
2018年6月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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