<東北の本棚>近代化の功罪語り合う
[レビュアー] 河北新報
「薩摩、長州両藩の英雄が日本の近代化を成し遂げた」という既存の明治維新像に疑問を投げ掛ける本がここ数年、増えている。本著もその流れをくむ一冊。近代史に詳しい作家半藤一利さんと、ライフネット生命保険創業者で立命館アジア太平洋大学長の出口治明さんが、幕末以降の日本の歩みを語り合う。
2人は「開国、富国、強兵」という維新の見取り図は、半分以上を幕府が作ったとの意見で一致する。維新最大の功労者はいち早く開国を論じた老中阿部正弘で、幕府に自己変革を迫ったと評価。彼の構想を大久保利通ら維新の志士が完成させ、日本が近代化したと論じる。
謀略だらけの暴力革命を後年「明治維新」の言葉を作って正当化したなど、辛口の指摘も目立つ。ただ、日本の遅れを自覚して先進国から懸命に学んだ岩倉使節団など「明治最初10年の近代化の努力は称賛すべきもの」と全否定はしない。
維新に伴う戊辰戦争を「東北諸藩の反乱ではなく、強引に攻めてきた西軍(明治新政府)に対するやむを得ない防衛だった」と新政府の無法を指弾する点には、東北の立場をよく代弁していると感じるだろう。
当時の主要国の国内総生産(GDP)を比較し、日本の経済成長が鎖国によって滞ったことを示すなど、全体にエコノミスト出口さんの視点がスパイスとなっている。
半藤さんは1930年東京都生まれ。文芸春秋編集長を経て作家に。「昭和史」「日本のいちばん長い日」など著作多数。出口さんは48年三重県生まれ。日本生命保険に入社し、2008年にライフネット生命保険を創業。18年から現職。
祥伝社03(3265)2081=1620円。