MeToo、母娘問題、妊活……。マリー・アントワネットがギャル語でぶっちゃける「女にかけられた呪い」とは。

インタビュー

63
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

マリー・アントワネットの日記 Rose

『マリー・アントワネットの日記 Rose』

著者
吉川 トリコ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101801308
発売日
2018/07/28
価格
594円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

マリー・アントワネットの日記 Bleu

『マリー・アントワネットの日記 Bleu』

著者
吉川 トリコ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101801315
発売日
2018/07/28
価格
637円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

MeToo、母娘問題、妊活……。マリー・アントワネットがギャル語でぶっちゃける「女にかけられた呪い」とは。

[文] 新潮社

 そんなさあ、王妃になったぐらいで人はそうそう変わったりしないって。むしろあたしがフランス王妃とかwww マ? マ? くっそウケるwww ってかんじなんすけど。昨日までちゃらんぽらんだったやつがなにかをきっかけに圧倒的成長を遂げていっぱしの大人みたいな口利くようになったりしたらむしろそっちのほうがうさんくさくない? ないわー、信用できんわーってかんじしない? というわけで王妃マリー・アントワネットもこれまでどおりでいくから! 調子アゲてこ、プチョヘンザ!(1774年5月17日(火)『マリー・アントワネットの日記 Bleu』より)

 ***

池田理代子の『ベルサイユのばら』、遠藤周作の『王妃マリー・アントワネット』、ソフィア・コッポラの「マリー・アントワネット」など、革命に散ったフランス王妃・マリー・アントワネットの生涯を描く名作は枚挙にいとまがない。平成30年8月、ここにまったく新しいマリー・アントワネットが誕生した。作家・吉川トリコが生んだ、ギャル語とネットスラングを駆使し、生来のお調子者として大暴れするアントワネットである。冒頭の日記はまさにそのアントワネットが綴ったもの。処刑当日まで克明に綴られた彼女の日記は、読む者に大きな衝撃と深い共感を与える――。

 ***

――ギャル語のマリー・アントワネット、画期的ですよね。

吉川 もともとギャル語が大好きで。すごくクリエイティブですよね。新しい言葉を創造してゆく。流行語を多用して書かれた小説も以前からよく読んでたんです。中森明夫さんの『東京トンガリキッズ』とか田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』とか。岡崎京子さんの『くちびるから散弾銃』も、当時の風俗や流行語がいっぱい出てくる作品で。私はリアルタイムではなくて3~4年遅れて読んだので、固有名詞が全然分からなかったんですけど、妙に楽しくて大好きでした。

――いつか自分でも、流行語満載の小説を書きたいと思っていらしたんですか?

吉川 そうですね。一時期流行った、記号を組み合わせて作る「ギャル文字」がありましたよね。「|ナ」=「け」みたいな。デビュー当時、あれを駆使して小説を書きたいと話したら、編集者から「それはやめて下さい」とか言われて(笑)。

――それから10年以上経って、やっと念願のギャル語小説が実現したんですね。

吉川 マリー・アントワネットに興味を持って、彼女を書きたいと思ったとき、「あっ、これをギャル語で書けばいいんだ!」ってひらめいたんです。現代の女の子をギャル語で書くよりも絶対面白くなるって思った。

――ネットスラングやHIP HOP用語も多数出てきますが、こういった言葉についても詳しかったのですか?

吉川 ある程度は馴染んでましたけど、この作品を書くためにめちゃくちゃ勉強しました(笑)。ネットとか、たまにファッション誌に載ってる「現代用語辞典」とかを見つけるとせっせとメモして、リスト作って。連載が終わってもまだまだ用語のストックが残ってたので、後からどんどん書き足しました。一時期、Twitterで「#クソ語彙小説」っていうのが流行ってたんですよ。

――クソ語彙小説?

吉川 古今東西の名作を140字の「クソ語彙」で翻訳する。「桃太郎」だったら「やばめの桃流れてきてぱっかーんしたら中から子供でてきたウケるwww」みたいな。あれに一時期ハマっていろいろ集めてたんですよね。その影響も受けていると思います。

漫画/はるな檸檬
マリー・アントワネットをギャル語で表現するとこんな感じに……(漫画:はるな檸檬)

――母娘問題やMeToo、フェミニズムをテーマにしようという気持ちは書き始めた当初からありましたか?

吉川 意識的にそう思っていたわけではないんですけど、マリー・アントワネットの資料をいろいろ読んでいくうちに、現代の女性と同じ悩みを彼女も抱えていたんだなとわかったんです。それに、やっぱり関心があるんですよね、フェミニズムに。だから自然と作品にも反映されるんですけど、ここまでしっかり書いたのは初めて。ギャル語だとフェミニズムについてすごく書きやすかったんです。

――それはどうしてなんでしょう。

吉川 一般的な日本語で書くと、どうしても真面目になっちゃうからかな。……やっぱり私のなかに恐怖があるんだと思います。「フェミニストって怖い」って言われるじゃないですか。それに対する恐怖。「おお~こっわ~www」みたいに言われがちですよね。

――「フェミですかwww」と。

吉川 そういう冷笑的な態度に晒されるのが怖いから、ストレートに書くことを恐れていたのかもしれない。フェミニズムに対する批判として、「そんなにギャーギャー怒らないで、もっと冷静に、もっと賢く主張するべき」という言い方がありますよね。「トーン・ポリシング(語調統制)」と呼ばれる、こちらを潰すやり方です。「細かいことにいちいち目くじら立ててると、本当に主張したいことを聞いてもらえなくなるよ」と。私はそれって全然違うと思っていて。女性差別の問題に大きい小さいもなくて、小さく思えることでも、それについて今泣いている人がいるんだったら、怒っていくべきです。……って気づくとまた怒ってる(笑)。

――怒りたくなるようなことばかりです!

吉川 強火で行こ! どんどん怒っていきたいです。じゃないと何も変わらないから。

――本作でいちばん好きな登場人物は誰ですか?

吉川 うーん、やっぱりルイ16世かな。最初は一生懸命、彼を恰好良く書こうとしてたんですよね。でも「モアナと伝説の海」を観て変わった。モアナの相棒となるマウイを結構情けない感じで描いていましたよね。あれを観て、ディズニーはいま女性だけじゃなく男性をも解放しようとしているんだな、と思いました。「私ったら、ルイを恰好良く書こうとしてた……!」ってハッとした。

――たしかに本作を読むとルイ16世のイメージが一変します。

吉川 ベルナール・ヴァンサンの『ルイ16世』(祥伝社)という資料があって、ルイ16世への見方が変わる良書。実はとても賢くて国民のことを第一に考える民主的な王だった、というようなことが書かれています。錠前ヲタの小デブじゃないよ、と。「マリー・アントワネットに操られていた」というようなイメージもありますけど、晩年にうつ病を患うまでは、妻を政治に関わらせないという強い意志を持っていたそうです。
 農民と一緒に畑仕事をしたりもしていたらしくて。階級社会なので本当はありえないことですよね。王があんなことをしている、とその姿は笑いものだったみたい。でも私はそのエピソードにたまらなくキュンときてしまった(笑)。

――「ベルばら」(『ベルサイユのばら』)だとフェルセンにときめく人が圧倒的に多かったと思いますが、本作でルイ派に転向する人もいそうです。

吉川 完璧な王子様が好きな人にはフェルセンがぴったりだし、弱いところも見せる屈折した男性が好きな人はルイに行ったらいいですね。私は屈折した男性が好きなので……。
 タイプの違う、でもこんなにすてきな2人の男性に愛されたんだもん、アントワネット、そりゃあ人気が出るはずだよ! と思いますよね。私も、アントワネットを書けてよかった。

Book Bang編集部
2018年8月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加