<東北の本棚>苦難乗り越える姿追う
[レビュアー] 河北新報
高い縫製技術で世界的に知られるオイカワデニム(宮城県気仙沼市本吉町)。東日本大震災の津波被害など幾多の苦難を乗り越え、地域の復興にも尽くすジーンズ製造会社の歩みを追ったノンフィクションだ。
オイカワデニムは1981年創業。初代社長の及川明さんが将来性を考慮し、それまで営んでいた呉服店から転換した。大手メーカーの下請けとして、仕事はすぐに軌道に乗る。「デニムさん」と地元の人たちに呼ばれ順調に進んでいた91年、明さんは48歳の若さで亡くなる。妻の秀子さんは3人の息子と従業員のことを考えて、2代目社長になる決心をした。
90年代末、不況に襲われ仕事が激減する中、自社ブランド製品を開発。品質の良さで国内外から注文が入るようになった。
2011年の大震災の津波で会社の倉庫や自宅を流されたが、秀子さんは地域の人たちと手を取り合い復興に努める。高台の工場を避難所として開放し、操業再開時には失業対応で正社員を募った。次男の洋さんのアイデアを生かしメカジキの角の粉を混ぜた糸を使ったジーンズや、大漁旗を活用したバッグの製造をするのだった。
16年11月、洋さんは秀子さんから社長を継いだ。従業員を前に述べた就任の言葉が心に響く。「大量生産、大量消費の社会は、どうしてもどこかにひずみが生まれます。ぼくは、次の世代の子どもたちに、負の遺産を残すことだけは、絶対にしたくない」
小学生の中学年以上を対象にする児童書。人それぞれに素晴らしい人生がある、と未来を担う世代にエールを送る一冊だ。
著者は1942年東京都生まれ。著書に「津波をこえたひまわりさん」など。
佼成出版社03(5385)2323=1620円。