『そのナイフでは殺せない』
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緑色、黒色、黄色
[レビュアー] 森川智喜(作家)
このたび『そのナイフでは殺せない』を出版してもらう運びとなりました。「ジャーロ」誌連載の同名小説を調整しつつ一冊にまとめた本であり、二作目の光文社森川作品です。一作目『レミニという夢』と内容的な関係はありません。
殺しても生き返るナイフをめぐり、映画撮影をする大学生と、一児の母でもある警部が衝突するおはなしです。
同書にはデザイナーが素敵なカバーを用意してくださりました。雰囲気ある木々の写真。全体的に緑色のカバーです。
オビには〈ノワール・ミステリ〉という触れこみを入れていただく予定です。〈ノワール〉はフランス語で黒色の意味。また「ジャーロ」誌に連載したというご縁で、自分はあとがきで〈ジャーロ(ジャッロ)〉のことに触れました。イタリア語で黄色という意味を持つ小説・映画用語です。
なので緑色、黒色、黄色と三色ばらばらになりましたね。
ところで組曲『惑星』(G・ホルスト)の第一曲「火星、戦争をもたらす者」ではありませんが、仮に火星人の文化で火星人同士の殺しあいが当然視されていたとします。もしも火星人があなたの目の前にやってきて〈あなたたちは、人が人を殺すことを悪いと考えているようだが、なぜそう考えるのか?〉と訊いてきたなら、あなたはどう答えますか?
人が人を殺すことはなぜ悪いのか? 倫理の問いでありながら、〈殺す〉や〈悪い〉をどう定義するのかという観点において言葉の問いともいえるのかもしれません。
物語は物語以上を語りません。しかし自分自身、作者としてというよりも一読者として『そのナイフでは殺せない』をふりかえるとき、笑って流すことのできない何かを感じてしまうのでした。自分がこの物語の作者になっても大丈夫なのだろうか、という不安すら。一体、これはなんなのでしょうか。(二〇一九年二月)