緑色、黒色、黄色――『そのナイフでは殺せない』著者新刊エッセイ 森川智喜

エッセイ

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そのナイフでは殺せない

『そのナイフでは殺せない』

著者
森川智喜 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912673
発売日
2019/02/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

緑色、黒色、黄色

[レビュアー] 森川智喜(作家)

 このたび『そのナイフでは殺せない』を出版してもらう運びとなりました。「ジャーロ」誌連載の同名小説を調整しつつ一冊にまとめた本であり、二作目の光文社森川作品です。一作目『レミニという夢』と内容的な関係はありません。

 殺しても生き返るナイフをめぐり、映画撮影をする大学生と、一児の母でもある警部が衝突するおはなしです。

 同書にはデザイナーが素敵なカバーを用意してくださりました。雰囲気ある木々の写真。全体的に緑色のカバーです。

 オビには〈ノワール・ミステリ〉という触れこみを入れていただく予定です。〈ノワール〉はフランス語で黒色の意味。また「ジャーロ」誌に連載したというご縁で、自分はあとがきで〈ジャーロ(ジャッロ)〉のことに触れました。イタリア語で黄色という意味を持つ小説・映画用語です。

 なので緑色、黒色、黄色と三色ばらばらになりましたね。

 ところで組曲『惑星』(G・ホルスト)の第一曲「火星、戦争をもたらす者」ではありませんが、仮に火星人の文化で火星人同士の殺しあいが当然視されていたとします。もしも火星人があなたの目の前にやってきて〈あなたたちは、人が人を殺すことを悪いと考えているようだが、なぜそう考えるのか?〉と訊いてきたなら、あなたはどう答えますか?

 人が人を殺すことはなぜ悪いのか? 倫理の問いでありながら、〈殺す〉や〈悪い〉をどう定義するのかという観点において言葉の問いともいえるのかもしれません。

 物語は物語以上を語りません。しかし自分自身、作者としてというよりも一読者として『そのナイフでは殺せない』をふりかえるとき、笑って流すことのできない何かを感じてしまうのでした。自分がこの物語の作者になっても大丈夫なのだろうか、という不安すら。一体、これはなんなのでしょうか。(二〇一九年二月)

光文社 小説宝石
2019年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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