美少女、その一瞬の永遠――『夢の迷い路』著者新刊エッセイ 西澤保彦

エッセイ

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夢の迷い路

『夢の迷い路』

著者
西澤保彦 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912710
発売日
2019/03/20
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

美少女、その一瞬の永遠

[レビュアー] 西澤保彦(作家)

 女優、佐倉(さくら)しおりさんの出演作として有名なのは映画『瀬戸内少年野球団』やTVドラマ『アリエスの乙女たち』あたりだろうか。どちらもわたしは観ていない。佐倉さんが女優業のみならず歌手活動もされていたことも今回ウィキペディアで調べて初めて知った。我ながらあまりにも無知すぎる。ファンなどと口が裂けても自称できないのはもちろん、佐倉さんの話題を取り上げること自体、はばかられるくらいだ。が、しかし。

 一九八四年に劇場でたまたま観た『瀬戸内少年野球団』の予告編、そこで目の当たりにした少女、佐倉しおりさんは当時二十四歳だったわたしにとって、なにからなにまで規格外と圧倒されるばかりに美しかった。その強靱で中性的なイメージはいまなお鮮烈に心に残っている。それほど衝撃的だったのならなぜ肝心の映画もドラマも未見のままなのか、我ながら不思議で仕方がない。その後のPENTAXのCMにしてもテレビで何度か目にしているはずなのだが、佐倉さんがどんな衣装を着けていたのかとか詳しい内容はよく憶えていない。Vシネマなどに活動の場を拡げていたことなどもまったく知らなかった。現在までこれほど無関心なままでいる己れに愕然(がくぜん)となるが、逆に言えばわたしにとっての佐倉さんの魅力はあの映画の短い予告編に凝縮されている。いやむしろ、そこにあるものが全てだった、ということなのだろう。四十歳以下の女性には興味を抱けないと公言する自他ともに認める熟女趣味の自分にも、こんな中学校に上がるか上がらないかの年頃の少女にときめく感受性が隠されていたのか、と。そういう意味でも衝撃的だった。

 イメージキャスティングとかモデルとして語るのは少し的外れになるかもしれないけれど、本書『夢の迷い路』のヒロイン、読書熱中少女エミールこと日柳永美(ひさなぎえみ)のキャラクター造形や描写に、あの一九八四年の佐倉さんの一瞬にして永遠のインパクトが大きく影響しているのはたしかだ。

光文社 小説宝石
2019年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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