累計1750万部! 「印税」「人気の理由」……医療小説の旗手・海堂尊が赤裸々に答えた!

インタビュー

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チーム・バチスタの栄光

『チーム・バチスタの栄光』

著者
海堂 尊 [著]
出版社
宝島社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784800246424
発売日
2015/09/19
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

スカラムーシュ・ムーン

『スカラムーシュ・ムーン』

著者
海堂 尊 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101333151
発売日
2018/02/28
価格
979円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【「桜宮サーガ」電子書籍化記念】累計1750万部! 「印税」「人気の理由」……医療小説の旗手・海堂尊が赤裸々に答えた!

[文] 新潮社


海堂尊さん

『チーム・バチスタの栄光』を皮切りにベストセラーを連発している海堂尊さんが、自身の作品群を一気に電子書籍化するという。多くの映像作品の原作を含む著作を平成から令和へというタイミングで電子化する理由について話を聞いた。

累計部数は1750万部超え!

── 一斉電子化とは、アイディアマンの海堂さんらしい仕掛けですね。いつ頃から考えていらしたのですか。

(海堂) いまや電子書籍化は当たり前なので、今さら既刊を電子化しても誰も知らないんじゃ意味ないな、と考えたんです。で、どうせやるなら全作品を一気にやれば、面白がって取り上げてくれる媒体が出てくるのではないかと。現にこうしてインタビューして頂いてるわけですし(笑)。

──もちろんそれもありますが、インタビューさせて頂きたかった一番の理由は、40作品で1750万部という驚愕の累計部数におののいたからです。デビューから13年しか経っていないのに、すごい数字ですね。ちなみに獲得印税額を計算してみますと……。

(海堂) 勝手に計算しないでくださいよ、自分でも把握してないし、半分はお国に召しあげられているんですから……(笑)。宝島の基幹シリーズが閉じたときに累計販売部数が1千万部を超えたことは教えられましたが、今回、一斉電子化にあたり累計部数を書いた方が効果的、と各社横断編集者合同会議でアドバイスされ、各社の担当さんに調べて頂いて、改めてびっくりしました。褒めて頂けるのは嬉しいんですが、上には上がいますし、どうもピンときません。
 でも部数ばかりを競うような昨今の風潮には危機感も抱いています。今、チェ・ゲバラの生涯を描く「ポーラースター」シリーズを書いていて、作品の質と熱量には自信を持っているんですが、売り上げは桜宮サーガシリーズには遠く及びません。でもこの物語は僕しか書けないし、僕が書くべきだと信じて執筆しているわけです。
 参考文献を150冊くらい挙げていますが、それでも実際の半分以下に絞っています。それは先人に対するリスペクトで、歴史ものを書く以上、当然の礼儀です。
 ノンフィクションと謳いながら参考文献を一冊も挙げず、刷り部数ばかり喧伝するような本も見掛けますが、売ったモン勝ちで売れれば何をしてもいいのか、そんな書籍を是正・排除できない出版界や書店は文化の担い手としての最低限の矜恃やモラルを失ったのを露呈させても恥ずかしくないのか、などと思うともう悲しくて悲しくて……。

──ス、ストップ。これは海堂さんの電子書籍刊行記念インタビューですので。

(海堂) 確かに。でもこんなことを口走ってしまう理由も理解してください。僕の座右の銘は「物議を醸す」で、物議を醸すのは、風通しをよくしたいからで、風通しが悪いとカナリアは死んでしまう。そしてカナリアは社会の空気が濁ってくるのをいち早く感じ取るわけで。あ、そんなカタルシスを求める読者が多いから売れたのかも。それと、医療小説というジャンルに需要があって、僕の作品がそこにハマったからなのではないかとも思っています。でも書きたいもの、書かなければならないと思うもの、そして僕にしか書けないものを書くというスタイルを貫いてきて、その結果としての数字ですから、とても嬉しいです。

──あら、なんとなく綺麗にまとめちゃいましたね。

「桜宮サーガ」構想はデビュー前から

──なぜこのタイミングで電子化を?

(海堂) 僕は紙の本が大好きで、書店も大好きです。子どもの頃からの夢は、一冊でいいから自分の書いた本が書店に並んだところを見たいというもので、だから小説を書き始めたのです。なので、紙の本が滅ぶならそれに殉じようと思っていたので、これまで電子書籍化には後ろ向きでした。
 でも読者から「海堂さんの既刊本を読みたいけれど、書店にないことが多い」と言われることが増え、紙の本や本屋さんは亡びないのに、海堂尊だけが亡びてしまうのはなんだかなあ、と思うようになったのです。まあ、君子豹変す、ってヤツですかね(笑)。
 僕の小説群は書評家の東えりかさんが「桜宮サーガ」と名付けてくれたように、全て関連しています。ですので気に入って下さった方は既刊、新刊問わず、さかのぼって読んでくださることが多い。せっかく僕の作品に興味を持ってくれたのに流通の問題で読者の方に作品が届かないのは悲しいので、電子化に踏み切ったわけです。

──たしかに海堂作品は、すべてが関連しているので、一度ハマると全部読みたくなります。いつ頃から、サーガ的な作品世界を創っていこうと思われていたのでしょうか。

(海堂) 『チーム・バチスタの栄光』でデビューする直前、2005年12月です。執筆した全作品を、同じ都市、同じ登場人物で全く別の物語として展開するなんて、まだ誰もやっていなそうだから面白いんじゃないか、と思いついたのです。でも全作品でそれをやるには最初からやらないとできない。せっかくデビュー時に思いついたんだから、とりあえず行けるところまで行ってみようかな、と思ったんです。で、気がついたら10年経っていました。
 後になってバルザックの「人間喜劇」が同じ手法を用いた作品群になっていると聞いたんですけど、実はまだ積ん読の状態です。
 このあたりは、電子版あとがきでも詳しく語っています。各書に共通あとがきと独自あとがきを2本立てで書き下ろしているので、そちらもコンプリートしてみてください。

作品上の矛盾を見付けた先着1名には著者から賞金が!

──今回の電子化にあたって、桜宮年表や作品相関図が付録としてついてきますが、これ、作るの大変だったのでしょうねぇ。

(海堂) 年表や相関図は僕が作ったわけじゃないので、僕は全然(笑)。
 2009年に「ジェネラル・ルージュの凱旋」が映画化された時に『ジェネラル・ルージュの伝説』という短編集を出したんです。その時担当者が作ってくれた相関図と年表がありまして。物語世界を拡張しようとしていた膨張期だったので、ここらで一回まとめておいてもらいたいなと思い、作ってもらいました。以後新たな執筆に取りかかる際には、年表や相関図を確認してから執筆しています。
 僕はいい加減なので、頭の中で作り上げた設定や相関図が、特に枝葉の部分で知らずに破綻していることがあるんです。何気なく書いた一行のために後の作品執筆時に苦しむこともありました。本筋と関係ないのに、ある人物がある場所にいたと書いたため、後続作品でその人物を違う場所に登場させられない。「なんでそんな場面に顔出ししてるんだ、ただいるだけじゃないか、このバカ野郎!!」なんて罵ったこともあります。
 最大級のつじつま合わせは佐々木アツシという登場人物の年齢に矛盾が生じているということを、担当編集さんから指摘された時です。彼は『ナイチンゲールの沈黙』と『医学のたまご』に登場しますが、物語の経過年数と彼の年齢が合わない。非常に困りましたが、物語世界の中の力業で解消しました。どうやって解消したかは『モルフェウスの領域』を読んでいただければおわかりになるかと。あ、その前に『ナイチンゲールの沈黙』と『医学のたまご』も読まないとダメですね。そういえば『医学のたまご』は文庫化してなかったんですが、今回電子化するのでこれを機に読んでみてください。他にも細かい矛盾もありましたが、今回の電子版は「完全版」なので整合性がとれているはずです(胸を張る)!

──これだけの作品群だと、何度見直しても矛盾が出てきそうですが、読者からの指摘でミスが見つかったことはありますか。

(海堂) 担当編集さんは最初の読者という説にしたがえばありますが、一般読者の方から直接指摘された経験はまだないです。細かい矛盾が出たときは後続の作品で整合性を取りますが、どうしてもダメな場合は文庫化の時になおしたりしていますから、初版で全部読まれたら大変です。あ、でもこういう手法はフィクションの世界だから許されるわけで、ノンフィクションでは許されませんけど(しつこい・笑)。

──それならもし今回の電子版の「桜宮サーガ」のなかに時空間的矛盾を見付けた方がいらしたら賞金10万円進呈、という企画はいかがでしょう。

(海堂) 面白そうな企画ですねえ。ありがとうございます。

──え? この賞金は海堂さんが出すんですよ?

(海堂) なぜに僕が?

──だって自信がありそうだったから……。それにほら、1750万部のベストセラー作家だし……。

(海堂) (少し考えて)仕方がない。面白そうだからやりましょう。ただし額が大きいと法律に引っかかる可能性もあるので、5万円にしましょう。

──なぜに半額? それだと電子書籍の購入代に消えてしまうのでは?

(海堂) 実はそれが狙いだったりして(笑)。人生、全てはギャンブルなので。僕のいい加減さを指摘できるという自信がある方は全電子作品を読破し、挑戦してください。でも勝負に負けても僕の作品をコンプリートできるので損はしませんよ。
 というわけで電子版「桜宮サーガ」のなかに時空間的矛盾を見付けた方がいらしたら、先着1名様に賞金5万円を進呈します。新潮社編集部「海堂電子作品矛盾指摘コンクール」宛にお葉書もしくは封書にて受け付けます。振るってご応募ください。締め切りは令和元年7月末日。なお当選発表は賞金の発送を以て代えさせていただきます。

──告知宣伝まで、ありがとうございます。

(海堂) 実は7月に久々に桜宮サーガの最新作『氷獄』を上梓するんですが、こちらでは確信犯的にやらかしています。電子化作品との矛盾点を見つけた方はお知らせください。こちらの方はKADOKAWA文芸局まで。応募条件は上記と同じで、賞金は5万円で締め切りは令和元年9月末日。というわけで賞金をケチったわけではありませんから。
 ちなみにこちらを見つけるには新潮社刊行のシリーズ『ジーン・ワルツ』『マドンナ・ヴェルデ』『ナニワ・モンスター』『スカラムーシュ・ムーン』も必読です。
 ふう、これでなんとか、インタビューしてくださった新潮社さんの顔も立てられたかな。

──ご高配、おそれいります。

新潮社
2019年6月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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