視点の切り替えで謎を解く! 臨床医学と探偵物語を融合させた医療ミステリ分野の新星

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  • 臨床探偵と消えた脳病変
  • チーム・バチスタの栄光
  • テロリストの処方

書籍情報:openBD

視点の切り替えで謎を解く! 臨床医学と探偵物語を融合させた医療ミステリ分野の新星

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 名医は鋭い観察力と判断力によって病因を特定する。これは名探偵が推理で犯人を追い詰める過程によく似ていないだろうか。そのことを証明したのが浅ノ宮遼の短篇集『臨床探偵と消えた脳病変』である。

 本書に登場する探偵役は、柳都医科大学病院救急科病棟医長の西丸豊だ。西丸は優れた洞察力と広範な知識を併せ持ち、他の医師たちが見抜けない病を次々と解き明かす診断の天才である。

「消えた脳病変」は、西丸豊の医学生時代における謎解きを描いた作品だ。脳外科の臨床講義で、担当教授は脳病変がとつぜん、患者の脳から消えてしまったケースを提示し、その謎を学生たちに解かせようとする。複雑な専門知識が必要かと思われる謎が、単純な視点の切り替えによって明快に解かれる点がミステリとしての美点である。

 古典的な謎解き小説の形式との融合にも作者は挑んでいる。「幻覚パズル」では、認知症による幻覚を巡る臨床のアプローチと、密室状況からの人間消失という謎が絶妙に絡み合う。

 浅ノ宮遼は本作がデビュー作である。臨床医学を見事に名探偵物語と掛け合わせる手腕は、今後の医療ミステリ分野を担うだろう。

 二〇〇〇年代、医療ミステリを新たなステージに引き上げた作品といえば、海堂尊『チーム・バチスタの栄光』(宝島社文庫)に始まる〈田口・白鳥〉シリーズだ。不定愁訴外来の責任者・田口公平と、「ロジカルモンスター」の異名を取る厚生労働省の白鳥圭輔が、病院内で起きる事件に挑む。医療小説にバディ探偵ものの趣向を持ち込んだ点が斬新だった。

 病院内で起きる出来事を描くだけが、医療ミステリではない。日本の医療全体を飲み込むような大事件を扱ったのが久坂部羊『テロリストの処方』(集英社文庫)だ。本作は医療制度が破綻に近づき、医師が勝ち組と負け組に二極化した近未来の日本を舞台に、勝ち組医師ばかりを狙う連続テロ事件を描いた作品である。一見、突拍子もない設定だが、読めば、現実の日本が抱える医療崩壊の実態を突き付けられ、戦慄するはず。

新潮社 週刊新潮
2020年4月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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