『魔法使ひ』
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<東北の本棚>したたかに戦後生きる
戦後間もない青森県津軽地方を舞台にしたミステリー。青森空襲で焼け野原になり、復興に向かう街で生きる人間の力強さが、猟奇的な殺人や陰惨な事件とともに描かれる。青森市在住の著者による文庫書き下ろし。
七つの短編から成り、表題の「魔法使ひ」が毎回登場する。闇の物資を運ぶ「担ぎ屋」として、金次第で死体や幽霊まで調達する男。本当に不思議な力を持つのか、壮大なトリックスターなのか。謎に包まれたまま、登場人物の望みをかなえたり、危機を救ったりする。
第1話は青森の闇市を牛耳る香具師(やし)を父に持つ、美しい双子の姉妹が主役。奔放なテフ(ちょう)子と従順なハナ子は互いに対抗心を燃やし、父の手先の健吾を巡って恋のさや当てをする。仕事でしくじり、父の怒りを買った健吾を助けようとハナ子は大胆な行動に出るが、健吾の親友の殺人事件に巻き込まれてしまう。
第4話と第6話は、おようとルミーのコンビが存在感を発揮する。2人とも進駐軍兵士を相手にする性的慰安施設の出身。政府が売買春を推進した施設に事情を知らないまま集められ、閉鎖後はバラックが立ち並ぶ街でたくましく生き延びる。
兄が戦死し、空襲で父と妹を失った健吾をはじめ、登場人物の誰もが家族や身近な知人を亡くしている。現実と幻想を行き来する場面は、生と死の境界が曖昧な時代を象徴しているかのようだ。
健吾やおようら登場人物が自由奔放に動き回る分、魔法使いの描写は控えめ。ミステリアスな存在として読者の関心をそそるだけに、一部の話では物語への関わりが物足りない印象も受けた。
著者は1964年青森市生まれ。2006年に「闇鏡」で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した。「幻想郵便局」をはじめとする「幻想」シリーズで人気を集める。
講談社03(5395)5817=756円。