『無人の兵団』
- 著者
- ポール・シャーレ [著]/伏見 威蕃 [訳]
- 出版社
- 早川書房
- ジャンル
- 社会科学/政治-含む国防軍事
- ISBN
- 9784152098757
- 発売日
- 2019/07/18
- 価格
- 4,070円(税込)
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現実の政治と軍事に即したロボット兵器の未来
[レビュアー] 成毛眞(書評サイト〈HONZ〉代表)
あのビル・ゲイツが2018年の年間ベストブックに選出した本だ。読んでみるしかない。テーマは未来の兵器と戦争。未来といってもすぐそこにある未来だ。
爆発的に普及したスマホのおかげで高度な機能を持つ電子部品の価格が劇的に安くなった。その結果、爆弾を運搬するミサイルやドローンなどの飛行体、機関銃をもつ戦闘ロボットなども安価に大量生産することが可能になった。いわば無人兵器の群れが戦争に参加する時代になりつつある。
一方で人工知能の発達はとどまるところを知らない。すでに将棋や囲碁で人間を打ち負かすだけでなく、民生レベルでも顔の識別や自動運転まで実用化されはじめた。
その二つの技術が軍事用として組み合わされると、近い将来、無数の人工知能搭載兵器が相手国を襲うことになる。ロボット同士、ドローン同士の戦闘にとどまれば単なる技術資源を争う競争でしかない。しかしいったん、その矛先が人間に向けられたとき、はたして人工知能は兵士と一般人の区別をつけることが可能なのだろうか。
本書の内容は単なる未来予測ではなく、現実の政治と軍事に即したものだ。ロボット兵器を禁止するのではなく、その危険な自律性に着目して、新たなルール作りを提案している。
つまり、機械があたりかまわず人類を攻撃するというようなことは絶対に防がねばならず、そのための国際的な合意が必要だということだ。その合意形成のためには未来の兵器に対する技術的な知識が必要であることはいうまでもない。
それにしても本書を読んでぞっとしたのは、大量の無人兵器を作り出すことができるのは大国だけではないということだ。むしろIT立国の中小国こそが得意な分野なのである。かれらが化学兵器や生物兵器を搭載した無人兵器を世界中に売りまくるという未来も見えてくる。