『まど・みちお詩集』
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詩の底に横たわる孤独と痛み
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
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『名探偵カッレくん』を書いたスウェーデンの作家、リンドグレーン。彼女の出世作『長くつ下のピッピ』は、小学生時代の私の愛読書だった。16歳のグレタ・トゥーンベリさんが、国連の気候行動サミットで演説する姿を見てピッピを思い出したと女友達の集まりで言ったら、「そういえば似てる!」と盛り上がった。
権威が嫌いで超のつく頑固者。三つ編みを振り立ててパワフルに突き進むピッピの姿は、同じくスウェーデンの女の子であるグレタさんとだぶる。
リンドグレーンは1958年に国際アンデルセン賞の作家賞を受けているが、日本人でこの賞を初めて受けたのが詩人のまど・みちおである。1994年、85歳の時だった。
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」などの童謡で知られるまどさんだが、曲をつけることを前提に書かれていない詩にも多くの名作がある。それらを含めた代表作を集めたのが『まど・みちお詩集』だ。私のお気に入りは、たとえばこんな詩。
するめ
とうとう
やじるしに なって
きいている
うみは
あちらですかと…
この本が素晴らしいのは、詩だけでなく散文(エッセイ)も収められていること。敏感な魂を持って生まれてきた人の深いさびしさが、独特の軽みとユーモアをもって語られている。
まどさんが5歳の時、一家は父親の仕事の都合で台湾に移った。だがまどさんだけが残されて祖父と二人で暮すことになる。兄も妹も両親と一緒に行ったのに自分だけ置き去りにされた悲しさ(そこには様々な事情があったのだが)は、生涯、詩人の胸を去ることがなかったようだ。まどさんの詩の底には、孤独と痛みの感覚が横たわっているが、その理由の一端にふれた気持ちになった。