自分が本当に辛かったのは「母親を好きと言えない」ことだったのかもしれない ふみふみこ×渡辺ペコ対談

対談・鼎談

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愛と呪い 3

『愛と呪い 3』

著者
ふみふみこ [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784107722287
発売日
2019/11/09
価格
704円(税込)

1122(6)

『1122(6)』

著者
渡辺 ペコ [著]
出版社
講談社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784065177570
発売日
2019/11/22
価格
693円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[特別対談]渡辺ペコ×ふみふみこ 本当は苦しみと違うものを探していた

[文] 新潮社

人にはどこかで軌道修正させてくれる力が必要なんじゃないか(ふみ)


ふみふみこ『愛と呪い』第3巻の帯

渡辺 ところで私、『愛と呪い』の3巻目を読んでドキッとしたことがあるんですけど。

ふみ なんですか!

渡辺 人間関係であり社会制度でもある「家族」は私にとってどうしても気になる存在で、ずっと頭のどこかで考え続けている対象なんです。それで、『1122』を連載しながら「いずれ描こう」と思っていたことを、ふみさんがもうはっきり描かれていたんです!(笑)。愛子が日記の中で、自分自身がパートナーに求めていたものは何だったのかを告白するところです。「だから私の『まともな親』になって、私を産んで育てて欲しかった。それがかなわないと泣き叫んで暴れてた」というあたり。

ふみ 確かにこの最終巻に来るまで、描きながらずーっとぐちゃぐちゃ考えてきた果てに出てきた言葉ですけど、私は先日、売野機子さんの『ルポルタージュ‐追悼記事‐』の最終巻を読んだ時にドキッとした(笑)。
 売野さんは娘を大量殺人犯に殺された母親に、「もしも時計が戻せるのなら、佐藤被告が子供だった時に戻したい。それで私が育て直すの」と語らせるんです。売野さんは親の方から、私はいわば殺人犯の方から、同じところに手を伸ばしたのかな、と。あれを読んだ時、上手く言えませんけど、「ああ、ここはたどり着くべきところなんだ」って感じました。
 1巻で神戸連続児童殺傷事件の「酒鬼薔薇聖斗」に憧れる愛子を描いた後、どうやってあの“世界”と“自分”が一対一で憎悪をやりとりしちゃうような中二病的世界から彼女を引きずり出そうかと苦労しました。酒鬼薔薇の世界観は絶対にダメなものだと直感しながら、一方で酒鬼薔薇と同じく私と同年齢の、秋葉原通り魔事件の加藤智大は完全に否定しきれない自分がいたからなんです。これ、微妙な問題だからインタビューとかで語るなって、ずっと編集さんから止められていたんですけど。
 もちろん加藤の犯罪は決して許されないし、「社会が悪い、弱者救済!」って言えば済む話でもないですよね。でも、中二病の子どもが他人の命を奪うグロテスクさと、何かに追い込まれた大人が他人の命を奪うグロテスクさは、同じく許されない罪でも性格が違うと思うんです。いまでもきちんとした答えは見つかりませんが、やっぱりどうにもならない場所に立った時に、人にはどこかで軌道修正させてくれる力が必要なんじゃないかと考えています。その力は、愛子が考えたような親なのか、あるいはお金なのか、もっと別のものなのか……。ああ、でも愛子は“親”的なものが手に入らなくても、リアルな加害者にはなりませんしね。よくわかりません(笑)。

渡辺 「自分は何によって救われ得るのか」がわからないままもがくリアリティーを捉えたのって、本当にすごいことだと思います。『愛と呪い』を最後まで読んだ時に、私が圧倒されたのは作品の面白さとうまさ以上に、その覚悟と勇気とエネルギーなのかもしれません。私も自分のたどり着いたところを描きたいなと改めて思いました。

ふみ いやほんと、みんなで「家族」というよくわからないものを、手垢でベタベタになるまで撫で回しましょう。

2019/10/15 新潮社クラブにて

 ***

渡辺ペコ
北海道生まれ。2004年『透明少女』でデビュー。青年誌初連載となった『にこたま』は、同棲カップルの現実を描き大きな反響を呼んだ。最新作は互いの不倫を認める30代セックスレス夫婦を描いた『1122(いいふうふ)』(連載中)。その他の著書に『ラウンダバウト』など。

ふみふみこ
1982年奈良県生まれ。2006年『ふんだりけったり』で「Kiss」ショートマンガ大賞・佳作を受賞しデビュー。既刊作に『女の穴』『ぼくらのへんたい』『qtμt』など。最新刊は「キレる17歳」世代の少女が家族への憎しみを乗り越える『愛と呪い』第3巻(完結)。

※[特別対談]渡辺ペコ×ふみふみこ 本当は苦しみと違うものを探していた 「yom yom」vol.59より

構成:yomyom編集部 写真:広瀬達郎

新潮社 yom yom
vol.59(2019年11月15日配信) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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