予備校講師・ゴロゴ板野が紹介。ビジネスパーソン向け、仕事に役立つ金言
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
決断に迷っているとき、人間関係がうまくいかないとき、あるいはビジネスのさまざまなシーンなどにおいても、故事・ことわざ、名言などは役に立つもの。
物事の本質を理解させ、納得させてくれるからです。
そこでご紹介したいのが、『ゴロゴ仕事論』(板野博行 著、ぱる出版)。
人気の予備校講師である著者が、ビジネスパーソンに向け、仕事に役立つ金言を紹介・解説した書籍です。
故事成語やことわざ、名言・格言などは次のような大きな特徴を持っています。
① 難しい言葉を使わず簡潔明瞭な表現で、
② ハッとするような真理や物事の本質を、
③ ズバリと納得させてくれ、
④ 心を奮い立たせてやる気にさせてくれる。
⑤ 何より、覚えて一生使える。
(「前書き」より)
そんな本書の第3章「行動が変われば習慣が変わる」のなかか、きょうは「現地現場主義」にまつわるトピックを抜き出してみたいと思います。
現地現物主義とは
トヨタやホンダなど、日本を代表する自動車メーカーが重視しているのが「現場主義」。
たとえばトヨタでは、創業者の豊田喜一郎が「現地現物主義」を唱えました。ことあるごとに現地へ赴き、自分の目で「現物」をみて、自分で考えることを重視していたのです。
当時はまだ日本の工業力が弱かったため、世界に対抗するためには現地現場で即決し、全力でものづくりに取り組まなければならなかったわけです。
同じく、ホンダの創業者である本田宗一郎が掲げた「三現主義」も有名です。
「現場・現物・現実」が重要であり、この3つの「現」が大きな成果を生み出す原動力になるという考え方(「現場」は「現地」、「現実」は「現認」と言われることも)。
そして、これらと同じ考えのことわざがあることを著者は指摘しています。
百聞は一見に如かず
有名な「百聞は一見に如かず」は、「人から百回話を聞いても、一度でも自分の目で実際に見ることには及ばない」という意味。
『漢書』趙充国(ちょうじゅうこく)伝のなかで、前漢の宣帝が反乱を起こしたチベット系遊牧民族の鎮圧を将軍趙充国に打診したときの将軍のことばに由来したもの。
そのとき趙将軍は皇帝に向かって
「百聞は一見に如かずです。前線は遠く、ここからでは戦略を立てにくい。まず敵地の地図が必要なので、私自身が馬に乗って現地へ行き、そのあと戦略を申し上げたい」
と言ったのです。
結果的に趙将軍は反乱を鎮圧したので、「百聞は一見に如かず」の考え方は有効だったということになります。
トヨタやホンダの「現場主義」も同じですが、人から話を聞くよりも、実際に現場に赴いて、
① 見る
② 考える
③ 決断する
④ 実行する
(115ページより)
この4つを連動させて物事に当たることが重要。そうすれば失敗を予防し、よりよい成果を早く確実に上げることができるからです。
一方、それとは反対のことわざも。
机上の空論
「机上の空論」は、頭のなかで考え出しただけで、実際には役に立たない理論や計画のこと。もちろん理論や計画も大切ではありますが、実際にはできもしない理論や、実行を伴わない計画が多いのも事実。
「実際の現場を知らない」ことと「実際に行動を起こさない(起こしたことがない)」ことがその原因です。
しかも現場を知らず、行動を起こさない人に限って「机上の空論」を振りかざし、理想論を押しつけたりするものでもあります。
そういう人が上司になると、部下はたまったものではありません。
多くの場合、「机上の空論」でつくられた理論や計画はうまくいきません。
また、うまくいかなかったとしても発言者は、「想定外のことが起きたから失敗したに過ぎない」などと自分の理論(空論)の間違いを認めず、他に原因を求めたり、実行部隊の力不足のせいにしたりすることもあります。
だからこそ、そうならないためにも、常に「三現主義」「現地現物主義」、そして「百聞は一見に如かず」を実行し、「机上の空論」にならないように自分を戒めたいものだと著者は記しています。
ちなみにこれは、メーカーなどの「ものづくり」に限った話ではないそうです。
たとえば人事などでも、多くの部門や離れた支店、複数の店舗がある場合、億劫がらずに現場へ足を運んで直接多くの社員に会って話を聞くべきだということ。
なぜなら人事に届く情報は「二次情報」と呼ばれるものなので、間接的だったり、恣意的にゆがめられたりしている可能性があるから。
自分自身のリアルな見聞である本物の「一次情報」を得るためには、やはり現場へ行って人に会う必要があるということです(なお、SNSやインターネットの掲示板など、情報の根拠や発信元が不明なものは「三次情報」と呼ばれることも)。
ひとつのことについても、人によってさまざまな見方があり、また置かれた立場によっても意見が違ってくるもの。
しかし、自分の力で一次情報を集めていけば、やがて話の全体像が見えてきて、正しい判断が容易になります。
さらに望ましいのは、なるべく早くそうした行動を取ること。時間が経てば経つほど、話はややこしくなってしまうものだからです。
織田信長からスティーブ・ジョブズに至る、さまざまな偉人たちのことば、漫画「SLAM DUNK(スラムダンク」からの引用など、ヴァリエーション豊かな内容。無理なく、楽しみながら知識を得ることができそうです。
Photo: 印南敦史
Source: ぱる出版