30年もの酒浸りの生活から脱却 断酒に至る自分を見つめた“幸福論”
[レビュアー] 板谷敏彦(作家)
最近の若者は酒を飲まないそうだ。ある調査によると20代の半数以上が週に1回以下しか飲まないという。
以前は社内接待ができないと出世しないなどと言われたものだが、身の回りの結果から言うと、私の知り合いで出世している人は何故か下戸が多い。
それもよく考えて見れば当たり前の事で、毎夜酩酊している人間が、その間しらふで仕事を積み上げた人間に勝てるわけがない。世の中は村社会のウェットな人間関係よりも実力が重視される時代に入ってきたのだろう。
著者は元パンクロッカーでありながら、今では作家を主として成功している。その彼が今回、30年に及ぶ酒浸りの生活から脱却し酒を止めた。その一部始終を綴った本である。
外形的には、肝臓数値の悪化からさらりと飲酒を止めたようにもお見受けしたが、実はその裏側で、もう一人の自分を歩道橋の上から国道に突き落さねばならぬようなすさまじい葛藤があったという。
自分の幸福を他人と比較すればキリが無い、自分の不幸をごまかすために酒に逃避するのは止めにしよう。幸せは相対的なものでなく、自身の絶対的な喜びにある。
大胆なメタファーに、日常生活におけるリアルで具体的なグチや「それ、あるある」という体験談を交えながら、作者の思索は人間の幸福とは何であるのか、という哲学的で人間の存在意義の根源に触れる問題にまで及んでいく。
自分の幸福が見つけられずにSNSで他人を非難ばかりする人、学歴だけ良くても、その後めちゃくちゃしていればアホと成り果てるなど、ピリリと効いたアイロニーも交えながら、著者独特の文章の展開を楽しむ本である。
すこぶる面白いが、人によって好き嫌いが出そうだから本屋でちょっと立ち読みしてからの購入をおすすめする。