『ようこそ「料理が苦痛」な人の料理教室へ』
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「完璧なご飯」からのリタイアとリハビリのすすめ
[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)
もしあなたが毎日家族のために料理を作り続けてくたびれてしまっているなら、栄養も見た目も完璧な食卓を演出しようと力んでいるなら。
本書で思い出したのは同じ著者が一昨年に刊行した『料理が苦痛だ』。
彼女の本は毎日の苦痛な料理からのリタイアを促し、そこからのリハビリを導いてくれる。読んでいる途中、トイレでも行こうとテーブルに置いてしまうと見つけた家族にギョッとされ「えっ……料理、本当はしたくないの?」と心配そうに尋ねられそうで注意が必要だけど(もし間接的に伝えたいならわざと家族に見えるところに置いておいてもいい)。
自分に作る料理と家族に作る料理は違う。私は元々食べることが大好きで料理も嫌いではないが、家族ができ、お気楽手抜き料理ばかりとはいかなくなった。そんなお願いはされていないのに勝手に「完璧なご飯」を作ろうと鼻息を荒くしている……新婚女の愚直さここにあり。そして叶わず、あとちょっとのところで塩加減をミスする自分にがっかりしている。
私は姉の作る白子のムニエルが大好物なのだが「焼いた後、フライパンに残ったバターでレモンバターソースを作るといいよ」と教わって、これは良いところを見せられるぞとドヤ顔で小麦粉をまぶしバターで焼くと、みるみる吸われてフライパンはからりと乾いてしまった。おそるおそるバターを追加したがそれも吸われてしまい、混乱しながらダメ元でフライパンにレモンを絞ったら「ジュッ」と音を立てて蒸発し、爽やかな香りだけがキッチンに残った。悲しい。しかしここで嘆いてばかりでは惨めである。完璧にしたいともがく健気な自分を抱き締めて、できる範囲で良いのだと許してあげよう。本当は冬に自家製味噌を仕込み、初夏に梅仕事をし、季節の花でシロップを作ったり気まぐれでパンなど焼いてみたいが、それはもっともっと未来の私に託すことにする。