【児童書】『かえるの天神さん』日野十成文、斎藤隆夫絵

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【児童書】『かえるの天神さん』日野十成文、斎藤隆夫絵

[レビュアー] 加藤聖子

■「神様」の復讐と鎮魂

 今、世間は受験シーズン真っただ中。最後は神頼みと、学問の神様、菅原道真を祀(まつ)った神社で合格祈願をする人も多いだろう。

 本書は、道真の生涯や天神信仰の由来が描かれた国宝「北野天神縁起絵巻」を元にした絵本。道真公は、傑出した文武の才で異例の出世を遂げるものの、陰謀で流罪となり死去。その遺恨からやがて怨霊となる。

 ストーリーはもとの骨格を変えず、子供にもわかりやすい文章に。登場人物は皆カエルの姿としたことで、復讐(ふくしゅう)と鎮魂の物語にどこかユーモラスな雰囲気も加わった。人物をカエルにした理由については、絵を担当した斎藤隆夫さんいわく「うまく消化してくれる」から。妬みや怒りなどの“人間”模様も生々しくなりすぎずに描けるという。

 特に魅力的なのは、主人公、ミチザネさんの怨霊が雷神となり、御所を襲う場面。今や“神”とあがめられる道真だが、恨みと赦し、闇と光を併せ持つ姿は何だかとても人間くさい。

 美しい日本画で生き生きと平安の都が蘇る、天神様の一大スペクタクル。(福音館書店・2000円+税)

 加藤聖子

産経新聞
2020年2月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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