自分だけの視点で「自分なりの答え」を生み出す。VUCA時代のアート思考

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「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考

『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』

著者
末永 幸歩 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784478109182
発売日
2020/02/21
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

自分だけの視点で「自分なりの答え」を生み出す。VUCA時代のアート思考

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

大人の学びの世界において「アート的なものの考え方=アート思考(Art Thinking)」が見なおされていると指摘するのは、『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(末永幸歩 著、ダイヤモンド社)の著者。

国公立の中学・高校で美術科の教師をしているという人物です。

なお、まずこの段階で意識しておくべき重要なポイントがあります。

「アート」とは、上手に絵を描いたり、美しい造形物をつくったり、歴史的な名画の知識・ウンチクを語れるようになったりすることではないのだということ。

「アーティスト」は、目に見える作品を生み出す過程で、次の3つのことをしています。

① 「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、

② 「自分なりの答え」を生み出し、

③ それによって「新たな問い」を生み出す

「アート思考」とは、まさにこうした思考プロセスであり、「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだすための作法です。(「PROLOGUE 「あなただけのかえる」の見つけ方」より)

つまり、美術の授業で本来学ぶべきは「作品のつくり方」ではなく、その根本にある「アート的なものの考え方=アート思考」を身につけることこそが、「美術」という授業の本来の役割だというわけです。

そして、そういう意味で「美術」はいま「大人が最優先で学びなおすべき科目」であると著者は考えているのです。

「ふだん行っている授業をバージョンアップさせた体験型の書籍」であるという本書から、ORIENTATION「アート思考ってなんだろう」に目を向けてみたいと思います。

誰もが“アーティストのように”考えた経験がある

単純化していえば、アート思考というのは、アートという植物のうちの地中部分、つまり「興味のタネ」から「探究の根」にあたります。

ちょっとかしこまった定義をするなら、アート思考とは「自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なるの探究をし続けること」だといえるでしょう。(39ページより)

そう聞いて、「私は別にアーティストになりたいわけではないし、才能があるわけでもない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかしアート思考は、画家や彫刻家など狭義のアーティストを目指す人のためのものでもなければ、デザイナーのようなクリエイティブ関連の仕事に就きたい人のためだけのものでもないと著者は記しています。

ましてや、生まれ持った才能やセンスに依存するものでもないとも。

ビジネスだろうと学問だろうと人生だろうと、結果を出したり幸せを手にしたりできるのは、「自分のものの見方」を持てる人

つまりアート思考は、その「自分のものの見方」「自分なりの答え」を手に入れるために考え方だということです。

そういう意味で、アート思考はすべての人に役立ち得るというのです。

といっても、身がまえる必要はないようです。

ピカソが残した「すべての子どもはアーティストだ」ということばどおり、人は誰でもかつてはアート思考を実践できていたはずだから。

そして、そんなアート思考を取り戻すのは、決して難しいことではないといいます。(42ページより)

「正解を見つける力」から「答えをつくる力」へ

アート思考がなぜ必要なのかについて、著者は「美術」とは正反対の教科である「数学」と対比しながら説明しています。

数学には「太陽」のように明確で唯一の答えが存在しているもの。たとえば「1+1=2」が正しいことはすでにはっきりしており、その答えを疑う余地はどこにもないわけです。

いわば、必ずどこかに揺るぎない1つの答えが存在するというのが「数学」の基本的なルール。

数学はこうした「正解(=太陽)」を“見つける”能力を養うということです。

一方、数学が「太陽」を扱うのだとすれば、美術が扱うのは「雲」。

いつもそこにある太陽とは違い、空に浮かぶ雲は常に形を変え、一定の場所にとどまることもありません。

アートが探究の末に導き出す「自分なりの答え」は、そもそも形が決まっていないもの

見る人や時が違っていれば、どうとでも変化するわけです。

子どもは空に浮かぶ雲を飽きることなく眺めながら、「ゾウがいるよ」「あれ? 巨人にも見える」「あ、トリになった!」などと「自分なりの答え」をつくり続けますよね。

教科としての「美術」の本来の目的は、このように「自分なりの答え(=雲)」を“つくる”能力を育むことなのです。(48ページより)

これまでの世界で圧倒的に支持されてきたのは数学的な能力であり、受験生に「美術」を課すような学校はありませんでした。

しかし、「それではまずいぞ」ということに世の中が気づき始めているのだと著者はいいます。

その背景になっているのが、「VUCAワールド」と形容される現代社会の潮流。

これは「Volatility=変動」「Uncertainty=不確実」Complexity=複雑」Ambiguity=曖昧」の頭文字をとった造語で、あらゆる変化の幅も速さも方向もバラバラで、世界の見通しがきかなくなったという意味。

「敷かれたレールに従ってさえいれば成功できる」という常識が通用しない時代になり、ここ10年ほどは「時代の変化にいち早く対応しながら『新しい正解』を見つけよう」と声高に叫ばれていました。

ところが現代のようなVUCAの時代にあっては、そのやり方すら役立たないものになりつつあるというのです。なぜならそれだけ、世の中の変動が目まぐるしくなってしまったから。

世界が変化するたびに、その都度「新たな正解」を見つけていくのはもはや不可能で、無意味でもあるということです。

それは子どもも大人も同じで、もはや「これさえやっておけば大丈夫」「これこそが正しい」と言えるような「正解」はほとんど期待できません

そんな時代を生きることになる私たちは、「『太陽』を見つける能力」だけでは、もう生きていけません。

むしろ、人生のさまざまな局面で「自分なりの『雲』をつくる力」が問われてくるはずです。(50ページより)

そして、そんな力を身につけるために、「美術」という強化は最適だと著者は主張するのです。

子どもにとっても大人にとっても、いままさに最優先で学ぶべき教科は「美術」であると。(46ページより)

著者は「13歳」こそ美術を好きになれるか否かの分岐点だと考えているそうですが、あえてそこに立ち返り、「美術」の本当のおもしろさを改めて体験できれば、それはきっとビジネスの現場における発想力や企画力などにも役立つはず。

そういう意味でも、読んでみる価値がある一冊であると断言できます。

Photo: 印南敦史

Source: ダイヤモンド社

メディアジーン lifehacker
2020年2月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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