チャラ男を通して日本社会や人間性を問う 絲山秋子による新作小説『御社のチャラ男』

レビュー

11
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

御社のチャラ男

『御社のチャラ男』

著者
絲山 秋子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065178096
発売日
2020/01/23
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

チャラ男のチャラさのリアリティ

[レビュアー] 佐藤文香(俳人)

 まず、タイトルがすごい。「御社」の「チャラ男」である。「御社」というお堅い会社用語と、コミュニティー内のキャラクターを示す俗語「チャラ男」が結びつけられることで、さっそく人間関係の立体構造が見えてくる。我々読者は、このパワーワードを得た時点でちょっと微笑み、これから登場するチャラ男とやらはいかにチャラいのかとワクワクしてしまう。ちなみに「チャラ男」は「チャラお」と読み、チャラチャラした男、すなわち言動が軽薄な男性を指す。私の友人にも、いる。

 本書は「弊社のチャラ男」「チャラ男のオモチャ」など全16話から成る連作短篇。「ジョルジュ食品」という会社の部長である三芳道造(44歳)=チャラ男と、彼にまつわる人たちそれぞれから見える世界が提示されていく。それにしても、舞台となる「ジョルジュ食品」、この社名からして、〝絶対お洒落だと思って名付けた感〟で笑える。作者・絲山秋子の音感のよさによる天才的なネーミングセンスが作品の要だ。浅はかさのリアリティは語彙から整備される。

 世代、性別、生育環境の違う人たちがたまたま集い、お互いの性格や能力に腹を立てたり感謝したりしながら、目の前の、あるいは長期的な目標を達成するために働く、それが会社という場所である。山田秀樹(55歳)は鬱で休職している伊藤雪菜(29歳)に対して「社内ではそれほど接点がなかったものの、もっとも正義感の強い人間」と判断し、自分の秘密を託す。伊藤は山田を「しょうもないおっさんなんだけれど愛嬌があって、相手を緊張させない」と感じているので、この二人の相性は悪くない。一方、政治家になりたい総務課の池田かな子(24歳)は、伊藤のことを「私よりずっと年上だけど、幼い」「社会人とは思えない」と感じているが、伊藤は池田について「もっといけすかない女子なのかと思っていたけれど、全然そんなことはなかった」「てきぱきしていて親切」と評価しており、食い違いがある。ただ、池田は伊藤を軽く見下しながらも、共通の敵=チャラ男がいるという理由で「決していやな人ではない」「何事もお互い様なんだから、上手くやっていかなければならない」とも思っている。チャラ男はチャラ男でチャラくなった事情があるし、チャラ男を好きになってしまう女子も発生する。オイルからドレッシング、フルーツビネガーからジューススタンドへと展開する会社の、社運をともにする彼ら。一人一人のその人らしさと関係性の詳細が書き込まれるために、物語の側が寄与している。

 自分が世界を見るのと同じように他人の目にも映っていると思いがちな私たちは、特定の誰かを主人公とした小説を読むとき、その主人公の色眼鏡で他の登場人物たちを見ることになる。しかし本書においては、様々な色眼鏡の試着が可能だ。彼らの主観を総合することで、各人の性格の特徴、人間関係を多面的に理解し俯瞰できる。完璧な人なんて誰もいないし、完全な悪人もどこにもいない。みんな、可愛い命の持ち主である。チャラ男も、然り。

河出書房新社 文藝
2020年夏季号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河出書房新社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加