【聞きたい。】しまおまほさん 『スーベニア』 生々しさ、恐れず小説に

インタビュー

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スーベニア

『スーベニア』

著者
しまおまほ [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163912110
発売日
2020/05/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

【聞きたい。】しまおまほさん 『スーベニア』 生々しさ、恐れず小説に

[文] 黒沢綾子


しまおまほさん

 「30代の、モヤモヤした気持ちが色あせないうちに書いておきたかった」

 初の長編恋愛小説。大好きだけど曖昧(あいまい)な関係の文雄、妻子持ちの点ちゃん、元カレの角田の間で揺れ動く、30代半ばの女性の複雑な心情を描いた。

 本心にフタをしたり、暴発して悔やんだり。進む方向を決めるべきだろうけど、なかなか決められない。モチーフは「自分」。主人公のフリーカメラマン、シオには自身の経験が投影されているという。

 36歳で出産、長男と暮らす。子育てエッセーの依頼があったものの、書く気になれなかった。幼少期のこと、家族や友人との日々をみずみずしく綴(つづ)ったエッセーに定評があるが、あえて小説という表現に挑んだ。

 「自分の仕事として、ドスンと重しになるものをまだ残せていないという思いがあった。大それたことをしようというわけではないけれど、自分がどうありたいかを考えたとき、小説だと思った」と振り返る。

 小説ゆえの「自由」を感じたという。「エッセーは、時系列を間違えちゃいけないとか、誰かのプライバシーを侵害していないかと、罪悪感を伴って整え過ぎてしまう。小説ならもっと生々しさを出せる。想像や創作を織り交ぜて自分の経験にフィルターをかけ、一定の距離感を保つことができる」。だからこそ、カッコ悪さや狡(ずる)さ、切なさもリアルに書ける。

 舞台は近過去の東京。東日本大震災と、身近に起きた“事件”が、シオの人間関係に揺さぶりをかける。本当に大切なのは誰か-。

 人の感情は簡単には割り切れない。SNS空間に浮遊する、レッテル張りもできない。「出産後は世界がバチッて変わると聞いたけど、全然変わらなくて…自分は自分だった」と語る。「人にはいろんな面がある。わかりやすいものなんて、ない」(文芸春秋・1600円+税)

 黒沢綾子

   ◇

【プロフィル】しまおまほ

 昭和53年、東京生まれ。多摩美大卒。平成9年、漫画『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『まほちゃんの家』『マイ・リトル・世田谷』など。両親は写真家の島尾伸三と潮田登久子、祖父母は島尾敏雄と島尾ミホ。

産経新聞
2020年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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