『海神の島』
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生命力溢れるヒロインは三姉妹 沖縄秘史を基にした博覧強記の探索譚
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
真藤順丈の『宝島』に高山羽根子『首里の馬』等、沖縄を舞台、題材にした作品が近年直木賞、芥川賞を賑わせているが、現代の沖縄文学といえば、この作家を忘れてはなるまい。ベストセラー『テンペスト』や山田風太郎賞受賞作『ヒストリア』でお馴染み、池上永一である。
沖縄・那覇生まれで石垣島育ち。ウチナーンチュならではの奔放な語りと人間ドラマで読ませる池上小説。その魅力はといえば、まず生命力に溢れるヒロイン像だが、最新作の本書では何と三人も登場する。
花城家の三姉妹は皆個性的。舞踊の名手で幼時から人誑しだった汀、生真面目で探求心に富んだ泉、そして姉妹の中で一番愛くるしいが口の卑しい澪(食べるものすべてに練乳をかける!)。三人の仲は悪く、顔を合わせれば諍いを始める始末(汀の通称は「エロ」、泉は「処女」、澪は「ロリ」)。
物語は姉妹の面倒を見る祖母・漣オバァに連れられ、三人が米軍基地内に墓参りに赴く場面から始まる。それは先祖の墓ではなく、海神の墓だった。発見者の曽祖父・石嶺賢治はお宝も見つけたというが、戦時中に紛失していた。三人は漣オバァに墓守を命じられるが……。
そこから三人の青春記が綴られていくのかと思いきや、話は一気に二〇年飛んで、銀座のクラブのママ、水中考古学者、地下アイドルへと成長した三姉妹の許に漣オバァ入院の知らせが。オバァは重病で、石嶺賢治の発見したという海神の秘宝を発見した者に遺産を相続させる遺言状を残していた。
かくて三姉妹の対立が深まるとともにお宝捜しが始まるが、沖縄秘史を基にしたこの博覧強記の探索譚がめっぽう面白い。三姉妹の戦略も強烈だ。沖縄、東京からトカラ列島の深海へと舞台を移して繰り広げられる、波乱万丈のストーリーテリングの妙。池上小説は本書が初めてという向きも、これを機会にぜひ!