NPO法はいかにしてでき、定着していったのか――市民社会化はどのように進んだのか

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ロビイングの政治社会学

『ロビイングの政治社会学』

著者
原田 峻 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784641174559
発売日
2020/04/09
価格
4,730円(税込)

書籍情報:openBD

NPO法はいかにしてでき、定着していったのか――市民社会化はどのように進んだのか

[レビュアー] 長谷川公一(東北大学教授)

日本社会に定着したNPO

 1998年12月1日に施行された特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)は、日本の市民活動や公益的な活動に大きな影響を及ぼした。かつては「NPOって何」という素朴な質問が多かったが、5万件を超えた2014年度以降は頭打ちであるものの、認証を受けたNPOが様々な分野で、多様な活動をしている。

 問題が起これば、この指止まれ方式でNPOを起ちあげることは、ひろく見られるようになった。2011年の東日本大震災では、多くのNPOが現地の支援に駆けつけた。

 例えば、評者が関係している地域地球温暖化防止活動推進センター(都道府県知事や市長が指定する)は全国に59センター(全都道府県と12の市センター)があるが、約半数がNPO法人、残りが公益的な法人(一般社団法人・一般財団法人を含む)である。NPO法人の場合には指定を目的に新たに組織され、自治体からの独立性が高く、地球温暖化防止活動に特化・専門化している場合が多い。公益的な法人の場合には前々から存在した自治体の外郭団体の環境団体が指定を受けた場合が多く、地球温暖化防止活動はその活動の一部であるなどの差違がある。NPO法人は、全国のほぼ半分の県で、地球温暖化防止に関わる一般市民や地域社会・学校等への啓発活動の重要な担い手となっている。NPO系と公益法人系に大別すると、対応して組織文化の違いが見られる点も興味深い。

 本書274頁に都道府県ごとのNPO法人の認証数が示されている。人口1万人あたりで見ると、どの県にも2.7以上のNPO法人があり、東京都の6.8を例外として、ほとんどの県に3から4程度のNPO法人があることがわかる。2000年頃にはNPO密度の地域格差の拡大が懸念されたが、少なくとも量的な面では、全国ほぼ同様に普及したことが理解できる。

 ただし同じ表によれば、認定NPO法人の絶対数が1ケタ台の県は21県と過半数近い。人口の影響もあり、人口1万人あたりのNPO法人数と、認定NPO法人の絶対数は対応していない。都道府県名を見てみると、認定NPO法人の絶対数の方が、より市民活動の活発度のバロメーターと言えるようだ。日本海側・四国・九州など周辺部に位置する県に、認定NPO法人が1ケタ台の県が目立つ。市民活動の活発度という質的な面では、残念ながら地域差があるようだ。

政治過程と社会運動のせめぎ合いとしてのNPO法の制定過程

 本書は、NPO法の制定過程と、近年に至るその後の改正過程を、関係者への包括的な聴き取りと当時の文書資料をもとに丹念に追いかけた労作である。「シーズ=市民活動を支える制度をつくる会(以下、シーズと略記)」を中心に、主に国会に対するロビイング活動に焦点をあてている。政治過程と社会運動の相互作用に注目し、両者間のせめぎ合いとしてNPO法の制定過程を捉え直す、という著者の企図は十分に体現されている。日本の政治の現実を反映して、政治学における政治過程論と、社会学における社会運動論が日本では切り離されており、政治過程と社会運動の重層性が実証的に描き出されたことは、これまで皆無と言っても過言ではなかった。市民団体側主導による議員立法として特異な成立過程を辿ったNPO法、著者が一員として整理に加わった関連の大量の文書資料と関係者の聴き取りという格好の材料を得て、本書は「社会学の視点から、ロビイングの運動過程を動態的に明らかにする」(本書17頁)ことに成功している。

 相対的に短期間でのNPO法制定を可能にした要因が、1995年の阪神淡路大震災と自民党・社会党・新党さきがけの連立政権(94年6月から98年6月)という政治的機会だったことは広く知られているが、本書では、市民団体のロビイングや加藤紘一・辻元清美・堂本暁子などの議員、衆議院法制局職員、経団連などとの連携の実相が、ダイナミックにビビッドに描き出されている。最も中心的なキー・プレイヤーとして、シーズの松原明氏が、「プロデューサー」役として、折々にどのような戦略を持ち、関係者とどのように渡り合ったのかが活写されている。制度設計・制度形成の現場に立ち会っているかのような臨場感が魅力的だ。

 とくに、自社さきがけの与党案を受けて、民主党による修正案が提起され、これをふまえて自社さ案を修正して法案をとおすという筋書きに対して、新人の辻元議員がノイズ的な攪乱要因となった内幕などはとくに興味深い。

 法案や法改正に立ち塞がったのが、参議院自民党保守派とNPOに対する優遇税制に抑制的な自民党の税制調査会などであることも印象的である。

 ただしシーズに焦点をあてているために、地域からの動きは、付随的・東京追随的なものとして、第7章6・7節で触れられているにとどまる。

 例えば仙台市では、1994年という早い段階で、市民や研究者・行政職員有志が参加して仙台NPO研究会が作られ、97年11月にはせんだい・みやぎNPOセンターが発足、行政が設置し、民間団体が受託し運営を行う市民活動サポートセンターが全国に先駆けて、99年6月にオープンした。こうした地方での実践から東京へという、NPOに特徴的なもう一方の流れが本書で等閑視されているのは、きわめて残念である。

政権復帰以降、右傾化・硬直化した自公政権

 本書全体をとおして、自公の連立与党が衆参両院の議席の3分の2近くを占め、野党の力が弱体化し、硬直的な第2次安倍政権以降の政治状況と比べると、小選挙区制導入前後の90年代半ばの政治過程の方が、今日よりはるかにダイナミックだったことが印象的である。当時の自公議員の動きなどから、民主党・社会民主党などの連立政権への政権交代(2009年)を経て、自民党が日本会議などの影響を色濃く受けることになり、イデオロギー的により右旋回したことを本書を繰りながらあらためて痛感する。

NPO法の功罪・帰結を内在的にどう理解すべきか

 制定と改正過程に焦点をあてたためでもあるが、本書では、終章で扱われているが、NPO法の功罪・帰結の考察は手薄である。法人数の増加というレベルでしか捉えられておらず、集金力・財政基盤、専従職員数や会員数、NPOの活動実態(休眠NPOの実態などを含む)、情報公開の実態、NPOセクターの社会的・政治的影響力などの帰結が論じられていない。本来は、帰結をめぐる評価項目の検討も不可欠のはずである。

 法の施行から22年。日本の市民社会や市民文化の革新にNPO法はどの程度貢献したのか、NPOの側のアドボカシー的な機能はどの程度高まったのか、NPOと新自由主義(ネオリベラリズム)との関係をどう考えるか等々、検証されるべき多くの論点がある。

 特定非営利活動促進法は、第1条の目的で「市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し」と謳っている。「市民が」という表記のように、市民が主語として条文に入っている日本で初めての法律であり、22年後の現時点でも唯一の法律である。本書91頁から93頁で記されているが、衆院段階では「市民活動促進法案」だった同法は、参議院自民党保守派の抵抗で、この箇所を除いて「市民」という語が本文中から削除され、最終的に「特定非営利活動促進法」という名称になった。その後も名称変更が提起されたことも何度かあったが(本書239頁など)、本格的な争点には至らず、結局そのままで今日に至っている。

 市民活動促進法の名称のままだったら、その後の展開はどう変わっただろうか。政治活動の全面禁止ではなく、もっと柔軟に政治活動に許容的な内容だったら、市民社会化はどう進んだだろうか。いずれも思考実験として、興味深い問いだが、本書では取り上げられていない。

 介護保険制度のもとでのサービス提供の担い手としてのNPOの役割など、分野によっては事業系のNPOは不可欠の存在となったが、市民社会や市民文化の革新、アドボカシー的な機能の拡大、政策提案能力の高度化という点ではかなりの程度、期待外れだったのではないだろうか。これらとの関連で、NPO法の制度設計やそれ以後の法改正の過程にどういう内在的問題があったのか。前述の名称問題を含め、この点には是非早急に切り込んで欲しい。

NPO制度の国際比較――韓国・台湾・中国の市民社会化

 興味深いことに、韓国や台湾・中国でもほぼ同時期にNPOの制度化が進んだ。90年代半ば以降、韓国や中国・台湾がどのように市民社会化し、日本を含め、それぞれの社会やNPOがどのような課題に直面しているのか。社会運動とNPOの関係はどうなっているのか。本書では、海外との関係は、ロビイングにあたって、アメリカの制度にどう学んだのか、情報源としてのアメリカに限られている。

 NPO制度の国際比較という視点の拡大からも多くを学びうるはずである。

 著者による本書の続編を期待したい。

有斐閣 書斎の窓
2021年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

有斐閣

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