父を殺したかった――ダンプ松本のプロレスと人生

レビュー

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ダンプ松本『ザ・ヒール』

『ダンプ松本『ザ・ヒール』』

著者
平塚 雅人 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093887939
発売日
2021/01/29
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

父を殺したかった――ダンプ松本のプロレスと人生

[レビュアー] 吉田豪(書評家)

 ダンプ松本、27年ぶり7冊目の単行本は、プロレス記者が、テーマを絞って綺麗にまとめた読み応えある一冊。家庭環境のヘヴィさを軸にプロレス人生を振り返るんだが、仕事もせず酒&博打&女遊びを繰り返し、隠し子も作る(しかも、その子にダンプと同じ名前を付ける適当さ)父親への憎しみが、とにかく尋常じゃない。

 つまり「ある夜、泥酔した父は母を殴ろうとして、勢いでガラス窓を叩き割ってしまった。畳は真っ赤な血の海だ。自分は『お母さん、このまま放っておけばこの人は死んじゃうから、救急車を呼ばなくていいよ』と泣いてすがった」ぐらいに父親を憎んだダンプは、こう決意するのである。「大好きな母を苦しめるこの男をどうにかしてやりたい。そのためには、自分が強くなって見返してやるしかない。その後にプロレスラーを志す自分には、大きな理由があった。父を殺したかったのだ」。

「この時期を最後に、父とは約45年も会話を交わさなくなってしまった」というのもすごいんだが、「酒を飲ないと、猫のようにおとなしい人でした。酒を飲ないお父さんは好きですけど、酒を飲んだお父さんは大いきらいです」という母親の手書き日記を誤字だらけのまま写真で載せる編集センスもすごい。「五郎(夫)の嘘つき矢郎の裏義り者早く死ね」で埋め尽くされたページや、「五郎早くはいれ」と書かれた「松本家之墓」のイラストが恐ろしすぎるよ!

 この後、女子プロレスの世界に入ると今度は先輩からいじめられ、「言葉にできないようないじめを受けた後、必ず優しい言葉をかけてなぐさめてくれるのは、決まって悪役、つまりヒールの先輩だった。華々しいスポットを浴びて花束を受けるベビーフェースほど、素顔には裏と表があった」とのことで「悪役になろう」と決意する話も説得力ありすぎ。ヒールほどいい人だとよく言われるが、ヒールの頂点に立ったダンプはいい人の頂点でもあったのだ。

新潮社 週刊新潮
2021年2月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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