【聞きたい。】東海林さだおさん 『マスクは踊る』
[文] 三保谷浩輝
■コロナ禍も「何のこれしき」
今年デビュー55年目というショージ先生。その幕開けとなった本書は、平成から令和の変わり目に掲載されたオール読物の連載エッセー「男の分別学」、週刊文春の連載マンガ「タンマ君」の傑作選を収録。「『令和』斯(か)く始動せり」や、コロナ禍の「散歩道入門」「マスクと人間」など時代を映す爆笑作品が並ぶ。
40年以上続く両連載に「僕の連載は始まると終わらないから。55年目も気がつけばという感じ」と淡々。一方、本書収録の「ここにも歴史あり」では、<とうとうやってしまった。昭和、平成、令和の三代をやってしまった>と令和を迎えた感慨をつづり、三代を生き、齢(よわい)を重ねた心境を「罪悪感」「恥ずかしながら」「おめおめ」と分析もする。
だが御年83歳も、ペンの切れ味は衰えず、「仕事が好き、楽しい。あと好奇心。大人になると減っていくというけど全く変わらず、まだいけるかなと」。
「令和の“チン”疑惑」では、「(電子)レンジでチン」の表現に、今のレンジは「ピー」と鳴るのに、なぜ「チン」なのかを徹底追究し、ある疑惑に迫る。
「子供のように、なぜ?という目が大事。子供は無我夢中、必死で生きているけど、ぼくも必死に仕事に向き合ってきた。忘我というか、仕事で一段落すると、すごくおしっこがしたかったんだと気づいたりする。そんなふうに熱中している自分が好きなんです」
変わらぬ好奇心に「なくなったら終わり。毎日鏡を見て確認している」という「目の光」も安泰。その目で三代を見続け、コロナ禍にも「大変だと言っているときでも、ちょっと角度の変わった考え方をして楽しむ精神が必要」と説く。
「マスクは踊る」のタイトルもその一つだが、本書では<戦時下を経験している者にとってはコロナ下などはものの数ではない。何のこれしき>の宣言も。ショージ先生についていきたい。(文芸春秋・1400円+税)
三保谷浩輝
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【プロフィル】東海林さだお
しょうじ・さだお 昭和12年10月、東京都生まれ。早稲田大学露文科中退。文芸春秋漫画賞、講談社エッセイ賞、菊池寛賞のほか、平成12年、紫綬褒章受章、13年、日本漫画家協会賞大賞受賞。著書多数。