『「エビデンス」の落とし穴』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【聞きたい。】松村むつみさん 『「エビデンス」の落とし穴』
[文] 桑原聡(産経新聞社 文化部編集委員)
■健康情報にはランクあり
現代人の最大の関心事は健康だ。メディアやインターネット上には「健康によい」と思わせる食品やサプリメントの広告・情報があふれ、中にはもっともらしいエビデンス(科学的根拠)を掲げているものもある。
広告のエビデンスって本当に信じていいものか。ワクチン接種、糖質制限、赤身肉、少量のアルコール、低線量の放射線などをめぐる健康情報のように、相反するエビデンスが存在するようにみえることもある。
そもそもエビデンスって何だろう、そしてどう向き合えばいいのだろう。そんな疑問に答えてくれるのが本書だ。著者は4年前に大学病院勤務医からフリーランスの画像診断医に転身、同時に一般の人々の医療リテラシー向上を目指し、医療・健康記事の執筆と発信を開始した。
「一般の方は〈エビデンス=絶対的な信頼性〉ととらえがちですが、エビデンスは日々生まれ蓄積されていくもので、研究の計画や解析方法など、条件の違いにより、相反するエビデンスが生まれることもある」
新型コロナウイルス対策で専門家の意見が二転三転したのは、日々新たなエビデンスが発見されたため。食事と健康をめぐる情報で、正反対のエビデンスが生まれるのは、研究の内容や計画の具体的な違いのためであることが多いという。
そもそもエビデンスには6つのランクがある。医学専門誌に掲載されるような専門家であっても、具体的なデータに基づかない個人的な意見は最も信頼性の低いレベル6、「症例報告」はレベル5、レベル1は「複数の研究を統合して、結果を出したもの(メタアナリシス)」、メディアがしばしば報じる「動物実験で効果確認」にいたってはレベル6よりももっと低く、欄外扱いだ。
「エビデンスは大切ですが、絶対視は危険です。どういったものかを理解したうえで、自身の判断の材料にしていただきたい。本書がそのお役に立てれば」(青春新書インテリジェンス・900円+税)
桑原聡
◇
【プロフィル】松村むつみ
まつむら・むつみ 昭和52年、愛知県生まれ。名古屋大学医学部医学科卒。放射線診断・核医学専門医。著書に『自身を守り家族を守る 医療リテラシー読本』など。