『師弟』
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在日韓国人の若者はこうして真の落語家になった
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
著者は自分が在日韓国人であることを知らずに育ちます。小学生の時、病院で普段使っているのと違う名前を呼ばれ、不思議に思います。
中学、高専時代には当然自覚し、もう一つの祖国を意識するのですが、ハッキリした目的のないまま、笑福亭鶴瓶の弟子になり、こう言い渡されます。「今日からお前は、在日韓国人でも、韓国人でも、日本人でもない。今日からお前は、芸人や」と。
この世界には「師匠をしくじってもおカミさんをしくじるな」との戒めがあります。ところが著者はおカミさんと上手くいきません。関係修復に時間がかかり、そこも読み所なのですが、著者に転機が訪れます。タレント志望で入門し、それが負い目だったのですが、落語にどっぷり浸かるようになり、ある日師匠がふともらした「お前、韓国語できるんか?」が甦ります。なぜそんなことを尋いたのかと。
韓国語の猛勉強が始まり、韓国にまつわることに多くの筆が割かれます。必然です。著者は「韓国語落語」を確立し、いくつもの韓国公演を成功させ、更には舞台『焼肉ドラゴン』にキャスティングされるまでに至るのです。著者ならではの分野を開拓したわけです。
師匠が落語に本腰を入れます。著者も後を追うように上方落語にのめり込みます。両者、タレントであり、タレント志向だったことがウソのようです。
2008年、開設されて間もない大阪初の落語定席天満天神繁昌亭の奨励賞に、著者は輝きます。そして翌年、ついに大賞を制するのです。月日は流れ、20年2月22日、大会場大阪松竹座での会にこぎつけます。ゲストは師匠の鶴瓶です。この会を成し遂げた途端のコロナ禍で、まさにギリギリの公演でした。
すべての芸人が暇になりました。著者はこれまでを振り返り、本書を著しました。この力作がコロナの産物としか言えない所以です。