松岡昌宏主演ドラマ『密告はうたう』原作シリーズ 最大の謎が明かされる。〈炎上〉社会を抉る警察ミステリー!

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残響 警視庁監察ファイル

『残響 警視庁監察ファイル』

著者
伊兼源太郎 [著]
出版社
実業之日本社
ISBN
9784408537900
発売日
2021/07/30
価格
1,870円(税込)

TVドラマ化『密告はうたう』シリーズ集大成の 最新刊警察小説は現代社会の深すぎる闇を抉る!

[レビュアー] 吉野仁(ミステリー評論家)

この夏、松岡昌宏主演で放送予定のWOWOW・連続ドラマW『密告はうたう 警視庁監察ファイル』。ドラマ化原作シリーズ第三弾となる本書『残響 警視庁監察ファイル』(伊兼源太郎 著)はまさにシリーズ集大成の一冊。その魅力をミステリー評論家の吉野仁氏が熱く解説する。

 ***

 待望の「警視庁監察ファイル」シリーズ最新作『残響』の登場である。『密告はうたう』『ブラックリスト』につづく第三弾。これまで明らかにされなかった謎や黒幕の正体がここでみな暴かれるのだ。
 
人事一課監察係の佐良は、庁内にいる一部警官が秘密裏に作る組織「互助会」を追っていた。互助会のメンバーは、“懲らしめ”と称し、法律では罰せられない悪党や罪と刑が釣り合っていないと判断した連中に私刑を加えていたのだ。そこで佐良は、同僚の皆口菜子、毛利らとともに、疑わしい警官を行確したり、偽情報で罠をしかけたりして組織員を割り出し、その全容を暴こうとしていた。

 しかも佐良や皆口にとって互助会の組織解明は、単なる監察の仕事のひとつではなく、個人的な問題を含んでいた。およそ二年前、当時は捜査一課強行班にいた佐良は、部下の斎藤と皆口とともに、荒川沿いの工場内で捜査にあたっていた。そのとき、銃撃にまきこまれ斎藤が佐良の目のまえで殉死したのだ。この事件がきっかけで佐良は監察へ飛ばされ、斎藤の婚約者だった皆口もまた運転免許試験場に左遷させられた。銃撃に使われたトカレフとその持ち主は、いまだ見つかっていないものの、銃弾の線条痕の割り出しから、互助会との関係が浮かび上がっていた。

 しかし、末端の組織員は網にかかったものの、その上に立ち互助会を操る者たちの正体はつかめないままだった。そんな矢先、監察トップの六角警務部長が殺されるという事件が起きた。はたして、実行犯と黒幕は誰なのか、どうつながっているのか。
 
 本シリーズの主人公、佐良は、警視庁警務部人事一課監察係に所属している。人事一課とは、警察官の配属や褒賞など人事に関する職務を行うだけではなく、職員の不正を取り締まる部署なのだ。そのため彼らは、疑いのかかった警官を調べ上げ、徹底した監視と尾行を重ねていく。ときに相手からの暴力に対抗したり、犯罪の現場に向かったりしなくてはならない。しかし相手が武術や格闘に覚えのある警官となれば、一筋縄ではいかないことも多い。そんななか、皆口は空手の経験者だけあって、女性ながら頼もしい相棒なのだ。とうぜん『残響』でも派手な格闘場面が登場し、大きな見せ場となっている。

 また、前作『ブラックリスト』では、解体中の廃病院で、班長の中西が崩落事故に巻き込まれるという事件が起きたが、この『残響』では、なんども爆薬が使用されるなど、さらに大がかりで凝ったアクションが展開していく。なにより、後半から徐々に明かされていく真相とともに、最大の敵との対決がくりひろげられるクライマックスシーンが圧巻である。シリーズの集大成といえる一作だ。

 それにしても、警察内部の秘密組織「互助会」とは、いわば「独善化し肥大化した正義の暴走」といえるもので、いまの世の中を見ると決して絵空事ではないばかりか、現実に起こりかねないところが恐ろしい。数年前、子どもの誘拐事件が多発したメキシコのある地域において、SNSに不審者がいるとデマが書かれたことが発端で、何の罪もない市民がリンチにあい殺された事件が本作でも言及されていた。その後、インドでもまったく同様のリンチ殺人が起きている。フェイクニュースやSNSによるそそのかしで、人々が理性を失ったまま暴徒化した例でいえば、二〇二一年一月のアメリカで起きたワシントン連邦議会議事堂襲撃事件も、その一種といえるかもしれない。自分こそ正義で、悪を正す側にいるとの思い込みは、ときに歯止めをなくしてしまうのだ。

 さらに、本作で使われている印象的かつ不気味な言葉に「誰もが駒だ」というものがあった。すなわち、捜査される互助会のメンバーにせよ、それを捜査する警官たちにせよ、みな使い捨てにされるゲームの駒にすぎないのだ。そのことが互助会の存在が複雑かつ凶悪化し、なかなか暴露されずにきた一因でもあるのだろう。そこに現代社会の闇が集約されているような気がしてならない。

 こうしたテーマのみならず、警察小説として、もしくは佐良を主人公とするヒーロー活劇ものとしての面白さは、まだまだ語り尽くせない。たとえば、前二作に登場した、佐良の旧友で弁護士の虎島や情報屋のチャンといった癖ありの者たちが今回もまた事件捜査に関わっている。シリーズ読者ならば、かれらのやりとりをにんまり眺めながらページをめくる場面ではなかろうか。

 そのほか、第一作『密告はうたう 警視庁監察ファイル』は、WOWOWでTVドラマ化され、二〇二一年八月二十二日から放送・配信されるという。主演はTOKIO松岡昌宏で、ほかに仲村トオル、泉里香らが出演する。これを機に、本シリーズを手に取る読者も多いことだろう。ぜひ、『密告はうたう』『ブラックリスト』に続き、この『残響』まで堪能していただきたい。

吉野仁(ミステリー評論家)

J-enta
2021年7月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

実業之日本社

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