ファンタジーならではの謎解きに注目!『聖女ヴィクトリアの考察』刊行記念 春間タツキインタビュー

インタビュー

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聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語

『聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語』

著者
春間 タツキ [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041115251
発売日
2021/08/24
価格
704円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ファンタジーならではの謎解きに注目!『聖女ヴィクトリアの考察』刊行記念 春間タツキインタビュー

[文] カドブン

■『聖女ヴィクトリアの考察』刊行記念 春間タツキインタビュー

第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈奨励賞〉受賞作『聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語』がついに発売! ファンタジー世界ならではの謎解きが、選考委員に高く賞賛された今作。著者・春間タツキさんに、担当編集者が創作秘話などを伺いました。

■受賞作が生まれるまで:恋愛ファンタジーの予定だったのに……

――――第6回角川文庫キャラクター小説大賞〈奨励賞〉の受賞、そして刊行おめでとうございます!

春間:ありがとうございます。ついに刊行ということで、とても嬉しいです!

――もとは「無能聖女ヴィクトリア」というタイトルで、小説投稿サイト「カクヨム」から応募されたんですよね。作品が生まれたきっかけはなんだったのでしょうか。

春間:私はもともとWEBの小説投稿サイトで活動していたのですが、新作のアイディアを探していた頃、WEB小説界では「不当な理由で追放された聖女が、追放先で大活躍する」というストーリーラインのファンタジー小説が大ブームとなっていました。
そこで「よし、私もブームに乗って聖女を追放してやろう」と筆を執ったのが始まりです。

ただ聖女が主人公というだけだと他の作品との差別化ができないので、あれこれ考えた結果「謎を解くことが使命の聖女」という設定を追加しました。

――WEBで流行の「聖女」と、独自要素の「謎解き」を組み合わせたわけですね。

春間:そうなんです。だけど執筆途中で「そもそも謎解きに特化した聖女なんて世の中に必要ないのでは……」と気がついてしまいまして。
そこから慌てて主人公ヴィクトリアが聖女に選ばれた理由、追放される理由などを捻り出していくうちに、この作品が出来上がりました。

――なるほど。では、WEBで連載するつもりで書き始めた作品を最終的にキャラクター小説大賞へ応募したのには、なにかきっかけがあったのですか?

春間:もともとは、賞に出すつもりはまったくありませんでした。WEBではミステリーが読まれにくいので、謎解き要素はぐっと抑え目にして、少女小説風の恋愛ファンタジーとして書いていく予定だったんです。

ですが筆が乗るまま書き進めていくうちに、どんどん謎と陰謀の比率が増していき、物語が想定とは違う方向に転がってしまいました。主人公たちが置かれた状況も切迫してしまって、恋愛なんてさせている余裕はありません。

――恋愛ファンタジーになる未来もあったんですか! それが今やこんなにも謎の深まるミステリーに……。

春間:そうなんです(笑)。仲の良い作家さんたちに「ミステリーっぽいファンタジー小説が出来たんだけど、どうしよう」と相談したところ、「WEB連載はやめて公募に出しな!」とアドバイスされたので公募への挑戦を決めました。

この時に、ファンタジー作品もOKな公募として角川文庫キャラクター小説大賞を教えていただきました。
キャラクター小説はあやかしや後宮モノ、というイメージがあったので「異世界ファンタジーなんて相手にしてもらえないんじゃ」と不安でしたが、結果こうして賞をいただくことができたので、あの時相談に乗ってくださった作家さんたちには感謝してもしきれません。

――なるほど、当初の予定を外れたことが、賞へ応募するきっかけになったのですね。

角川文庫のキャラクター小説大賞は、ジャンル不問で魅力的なキャラクターが活躍する小説を募集しています(宣伝)。そのことをご存じでアドバイスをくださった作家さんには担当編集としても感謝をお伝えしなければ……この作品と出会わせてくれて、ありがとうございます。

ファンタジーならではの謎解きに注目!『聖女ヴィクトリアの考察』刊行記念 春...
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■キャラ誕生の裏側:マイナス要素満載の主人公×暴れん坊な男子

――謎解きのみならず、キャラクターの魅力も今作の面白さを作り上げていると思います。選考委員の荻原規子先生も「天然なヴィクトリアがほとんど悩まないので、逼迫した場面も明るく読めました」と選評でコメントされていました。

そんなキャラクターたちはどのようにして生まれたのでしょうか?

春間:他の作品で元気な女の子を書いてきたので、「次は亡霊のような覇気のない主人公を書きたい」と考えて誕生したのがヴィクトリアです。彼女には魔力がない、仲間がいない、行動力もない……と、マイナスな要素をたっぷり詰め込みました。

ただ、そんなないない尽くしのヴィクトリア一人だけだと状況に流されるのみで物語が終わってしまいます。そこで彼女の代わりに物語をかき回してくれる存在として、アドラスというキャラクターを作りました。

――ヴィクトリアとバランスを取れるキャラとしてアドラスを考えたのですね。

春間:そうなんです。初期案だとアドラスはキラキラな王子さま系男子という設定だったのですが、こうした事情で今の暴れん坊将軍のようなキャラとなっています。もしかしたらこれが、物語が予定外の方向へ進んでしまった原因かもしれません……。

――たしかに本編のアドラスはなかなかの暴れっぷりですね(笑)。

でも、アドラスがこういうキャラになったからこそ、ヴィクトリアとの他にないコンビ感が生まれて、それが魅力になっていると思います。

春間:ありがとうございます。ヴィクトリアとアドラスの関係性も、楽しんで貰えると嬉しいです。

■ファンタジーとミステリーの融合:この作品たちがなかったら、ヴィクトリアも生まれなかった!

――「ファンタジーならではの謎解き」という言葉のとおり、作中では西洋ファンタジー世界の設定と、ミステリーの要素が絶妙に噛み合っていますよね。

ファンタジーとミステリーの両方を普段から好んで読まれるのですか?

春間:はい。特に米澤穂信先生の『折れた竜骨』と上遠野浩平先生の「戦地調停士」シリーズが大好きです! どちらもファンタジー要素のあるミステリー作品で、はじめて読んだときは「ファンタジーとミステリーって、混ぜてもいいのか!」と衝撃を受けました。作品の雰囲気に合わせた謎の作り方もお見事です。この2作品が存在しなかったら、私が聖女ヴィクトリアを書くこともなかったと思います。

――納得の2作品の名前が出てきましたね!

春間:あとは「リンカーン・ライム」シリーズや「ロバート・ラングドン」シリーズなど、海外ミステリーもよく読みますし、映画が大好きなので、ハリウッド映画化されそうな海外作品はチェックしております。

――映像でもミステリーを好まれるのですね。ファンタジーについてはいかがでしょう。

春間:小学五年生のとき、上橋菜穂子先生の『闇の守り人』と荻原規子先生の『西の善き魔女』に出会い、ファンタジーというものを頭に刻み込まれました。もう何度読み返したか分かりません。この二つの作品には価値観そのものを大きく変えられたと思います。

あとは吉田直先生の「トリニティ・ブラッド」シリーズにも中学生時代どっぷりはまり込みました。こちらはとにかく10代の心に突き刺さる設定がぎっしり詰まっていて、その棘が抜けないまま大人になってしまいました。
聖女ヴィクトリアには「あ、こいつトリブラ好きなんだな」とはっきり分かる箇所がいくつかありますので、ぜひ探してみてください。

――10代で読んだファンタジー作品がずっと心にある感覚、すごくわかります。

春間:同志がいて嬉しいです(笑)。
他にも、森見登美彦先生やケン・フォレット先生、浅田次郎先生、藤原伊織先生など、影響を受けた方はお名前を挙げきれないほどたくさんいらっしゃいます。
執筆歴が浅いので、尊敬する先生方の作品を何度も読み返して、勉強しながら文章を書いております。

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■読みやすさの秘密:十分のドラマを繋げて二時間の映画を作るイメージ

――作家としての春間さんについて、さらに教えてください。

元々は「焦田シューマイ」名義でWEB小説を書かれていたというご経歴ですが、そもそも小説を書き始めたきっかけは何だったのでしょうか。

春間:WEB小説なら筆無精な自分でも連載を続けられるかも、と考えたのがきっかけです。作品を完結させることが必須な公募と違って、WEBは書いたぶんだけ投稿すればそれだけで作品を公開することができます。締め切りもありません。その気軽さが性に合っているなあと思い、大人になってはじめて小説を書くようになりました。
そうしたところ予想以上にたくさんの方に読んでいただけて、嬉しくなって執筆を続けるうちに今に至っております。

――書いたらすぐに反応を貰えるのがWEB小説の楽しいところですよね。WEBでの執筆で意識していることはありますか?

春間:WEB小説って、通学時間だったり夜眠る直前だったり、そんなスキマ時間に読まれることが多いんです。だから細切れに読んでも面白いと思っていただけるように、お話を書く時はストーリーの起伏を多くして、テンポも早めにするよう心がけております。十分くらいのドラマを繋げて二時間映画を作るようなイメージです。

また私自身は登場人物が過酷な目に遭う展開が大好きなのですが、これをやりすぎるとWEB小説では読者離れの原因になります。なので、辛い場面では主人公を明るく振る舞わせたり、前後にコミカルな会話を挿入したりして、作品のストレス値を和らげるようにしております。

――なるほど。そういうWEB小説で培ったスキルが『聖女ヴィクトリアの考察』にも発揮され、抜群の読みやすさが成立しているのですね。

春間:読みやすい、という感想は本当に光栄です。「逼迫した場面でも明るく読めました」という荻原先生の選評コメントは、「気づいていただけた!」と転げ回るほど嬉しかったです!

■刊行を前に:改稿に1ヶ月!悩みに悩んだ注目シーン

――見本もできあがり、あとは刊行を待つばかりという状況ですが、イラストを見たときの感想をぜひ教えてください。

春間:表紙イラストは、もうとにかくすごいです! 「細部まで魂がこもった絵です」という編集者さんのコメント付きで表紙イラストが送られてきたとき、まさにその通りだと思いました。
なんと言っても、アウレスタ神殿が素晴らしいです。作中ではそこまで描写されていなかった神殿を、六七質先生が著者のイメージ以上に壮麗な姿で描いてくださいました。

あとは、神殿を見上げるヴィクトリアと、彼女を離れた場所から見守るアドラスの構図にも痺れました。一枚の絵の中でキャラクターの関係性が示されていて、見ているだけでも物語が感じられるんです。

六七質先生の表紙のおかげで、作品世界に深みが増しました。本当にありがとうございます。

――スケールの大きさと繊細な美しさの両方が宿った、まさに神がかったイラストですよね。

また、内容を紹介する漫画も作られました。そちらはお読みになっていかがでしたか?

春間:笹木あおこ先生の紹介漫画ですね。本当に素敵です。
六七質先生のキャラデザを元にしながらも、笹木先生らしいキュートな絵柄で物語の導入を漫画にしていただきました。
書籍では姿が描かれないサブキャラクターたちも登場するので、聖女ヴィクトリアに興味をお持ちの方には笹木先生の漫画もぜひ見ていただきたいです。
ちなみに私のお気に入りは神官ミアです。はじめてネームで彼女の姿を見た時には「可愛い!」と声が出てしまいました。

――ミアは春間さんのお気に入りですよね(笑)。いいキャラなので人気が出そうです。

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――刊行を楽しみにしている方に向けて、注目ポイントがあればぜひ教えてください。

春間:注目ポイントというよりは、苦労した箇所なのですが……。
応募原稿には“ヴィクトリアがとある場所から脱出するため、監視役に暴力を振るう”というシーンがあったのですが、「ヴィクトリアには非暴力の人であってほしい」という編集者さんの意見を受けて、急遽彼女を暴力以外の手段で脱出させる必要に迫られました。

この解決策を考えるのに一ヶ月くらいかかったと思います。暴力以外の手段で物事を解決する難しさを味わいました。
苦労したので、どんな方法でヴィクトリアが脱出をするのかたくさんの方に読んでいただきたいです!

――あの改稿にはそんな苦労が……! でもよりよい形になっていると思います。みなさん、ぜひ読んでお確かめください。

本編のラストで、アドラスの持ち込んだ謎はヴィクトリアによって明かされますが、まだまだヴィクトリアの謎解きが読みたいです。今後について構想はあるのでしょうか。

春間:続きを書けるなら、ファンタジー感溢れる巨大建造物を舞台にした事件を起こしたいです。ゴシック感溢れる大聖堂や、既に登場した宮殿もいいなぁと考えております。そしてその建物を、六七質先生に描いていただきたいです!

――新たなるファンタジーとミステリーの融合が見られそうですね! ヴィクトリアとアドラスの関係がどう変化してゆくかも気になります。続きが読めるのを楽しみにしています。

■作品情報『聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語』

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ファンタジーならではの謎解きに注目!『聖女ヴィクトリアの考察』刊行記念 春…

聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語
著者 春間タツキ
定価:704円(本体640円+税)

王宮の謎を聖女が解き明かす!大注目の謎解きファンタジー。
霊が視える少女ヴィクトリアは、平和を司る〈アウレスタ神殿〉の聖女のひとり。しかし能力を疑われ、追放を言い渡される。そんな彼女の前に現れたのは、辺境の騎士アドラス。「俺が“皇子ではない”ことを君の力で証明してほしい」この奇妙な依頼から、ヴィクトリアはアドラスと共に彼の故郷へ向かい、出生の秘密を調べ始めるが、それは陰謀の絡む帝位継承争いの幕開けだった。皇帝妃が遺した手紙、20年前に殺された皇子――王宮の謎を聖女が解き明かすファンタジー!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000576/

KADOKAWA カドブン
2021年08月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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