<東北の本棚>身命賭し国難に当たる

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政治の倫理化

『政治の倫理化』

著者
後藤 新平 [著]/新保 祐司 [解説]
出版社
藤原書店
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784865783087
発売日
2021/03/29
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>身命賭し国難に当たる

[レビュアー] 河北新報

 国難を迎えるたび、鮮やかな先見性とアイデアで課題解決に導く。こんな理想的な人物が100年前の日本にいた。「非常時の男」と呼ばれた、奥州市出身の後藤新平(1857~1929年)。南満州鉄道初代総裁、外相、東京市長を歴任した。23年9月の関東大震災後は内相に就き、壊滅状態にあった首都の再興に腕を振るった。
 25年成立の普通選挙法で成人男性に選挙権が付与され、有権者は4倍強の約1300万人に拡大。初の普通選挙を28年に控え、病み上がりを押して尽力したのが政治倫理の大切さを訴える全国行脚だった。
 26年春から約1年をかけた遊説は、計260回、390時間に上る。東京・青山会館で4000人以上を前に行った初講演の内容は「政治の倫理化」と題して出版され、ミリオンセラーを記録した。
 氏の業績を顕彰する後藤新平研究会が、27年の一周年講演会の内容、解説など加えて再編集し、代表を務める藤原良雄氏が経営する藤原書店(東京)が刊行した。
 遊説の骨子は「大中至正(だいちゅうしせい)」「中庸の道」。右にも左にも偏らず、私利私欲を許さないとの信念だ。「日本伝統の理想主義と、西洋の進歩主義とを統一し、これを調和して、日本の現在の国民精神を奮い起こすことが急務であると思うのです」と説く。
 若い世代を盛んに登用し「後藤の午前八時主義」と言われた。常々口にしたのが「財を遺(のこ)すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とす」。元プロ野球東北楽天監督の故野村克也氏もこの言葉を信条としていた。
 「私のようなものは、ほんの一人の露払い、道開きにすぎません」。捨て身の覚悟が伝わる。現在もまた国難と言われるが、身を賭す政治家がいったい何人いるだろうか。先達の宿題はずしりと重い。(志)
 ◇
 藤原書店03(5272)0301=2420円。

河北新報
2021年9月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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