コロナ禍にも通じる日系ブラジル移民の「仁義なき戦い」

レビュー

4
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灼熱

『灼熱』

著者
葉真中 顕 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103542414
発売日
2021/09/24
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

コロナ禍にも通じる日系ブラジル移民の「仁義なき戦い」

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 日本移民の多いブラジルで、第二次世界大戦後、日本の戦勝を信じる“勝ち組”と、“負け組”との間に抗争が起きたことは知っていた。だが、同じ移民同士のいさかいがこれほど熾烈で陰惨なものだったとは。

 本書はその“勝ち負け抗争”の真実を描いた長篇だ。物語は二部構成で、まずは主役の一人比嘉勇の軌跡から始まる。勇は沖縄の出身だが彼の生まれた大正時代、沖縄は食糧難で、九歳のとき大阪に移住。だがそこでは差別にあい、なかなか暮らしは楽にならなかった。そんなとき父親の従弟の正徳からブラジル移住案が持ち出され、勇は彼の養子となり、ブラジルの地を踏むことに。

 一九三四年三月、サンパウロ州から五〇〇キロ余り離れた殖民地・弥栄村に着いた勇たちは、地主の退役軍人・渡辺重蔵少佐から借りた土地で農業を始める。新天地で希望の募る勇だったが、ここでも差別にあい、地元の少年たちと争う羽目に。だがそれをきっかけに、村一番の農園の息子・南雲トキオと知り合う。トキオは皆から一目置かれるカリスマ少年。のちにサンパウロから移ってきた渡辺少佐の妻・志津の兄で、やはり退役軍人の瀬良悟朗の指導のもと柔道でもよきライバルとなる。

 かくて前半は、勇とトキオの成長と友情を軸に、昭和の日本移民の軌跡が丹念に描かれていくが、日米開戦とともに雲行きが怪しくなっていく。日本の移民は旧弊な本土の家制度を持ち込んでいた。保守的な日本の農村そのままの村落共同体を形成しており、おまけに国際的な情報にも疎かった。それらがやがて抗争に火をつけていくのである。

 むろん後半は、テロ活劇顔負けのスリリングな抗争演出も用意されている。いや、そもそも本書が回想形式で綴られているあたりからしてミステリー度は高いというべきか。コロナ禍における社会的分断にも通じる、現代の社会派ミステリーの旗手たるにふさわしいホットな大作だ。

新潮社 週刊新潮
2021年10月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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