『神様たち』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
すべて許される 森美樹
[レビュアー] 森美樹(作家)
神社で風が吹いたら、そこに神様がいるという。もう五年以上前だろうか、山頂の神社を参拝した折に、誰かが言っていた。
幼少期には神社仏閣など興味がなく、家族総出の初詣すら面倒くさかった。人だかりで本殿へもお賽銭(さいせん)箱へも遮られる中、あてずっぽうに五円玉を放り、礼も尽くさず願い事だけはしっかりした。
それがどうだろう。命の賞味期限をうっすら意識するようになってから、神様に寄り添いたくなった。五円玉を投げつけてこちらの希望を叶えろなど、乱暴もいいところだ。普段は勝手に生きているくせに、ちょっとつまずくと神様を頼る。命は永遠だと、生きることに無意識だった頃の自分を恥じた。
今、私の参拝方法はひたすら「無」になることだ。両手を合わせている間は何も考えない。常日頃、膨大な情報に襲われているし、頭も心も雑音だらけである。神様と対峙している時にしか、「無」になれない。神様がどこにいるのか、はたしているのか、正直よくわからない。だって、見えないのだから。
見たいのは、無我の境地の先にある欲だ。願い事などというさわやかなものではなく、甘さを煮詰めすぎたような、抗えない性(さが)のようなもの。神様がここにいるのだとして、隠し立てはしたくない。
決して立派ではありませんが、これでも懸命に生きています。「無」から変な欲が漏れたかもしれませんがすいません、嘘偽りはないのです。これでもがんばって、生きています。
参拝を終え、参道を歩きながら、心でつぶやく。
すると風が吹くのだ。気のせいだとわかっている。だって、風も神様も、見えないのだから。
でも私は一瞬、すべて許されたように思うのだ。