グレーゾーンの囁き オキナワの夜に語られるべき沈黙

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アメリカンビレッジの夜―—基地の町・沖縄に生きる女たち

『アメリカンビレッジの夜―—基地の町・沖縄に生きる女たち』

著者
アケミ・ジョンソン [著]/真田 由美子 [訳]
出版社
紀伊國屋書店出版部
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784314011822
発売日
2021/08/31
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

グレーゾーンの囁き オキナワの夜に語られるべき沈黙

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 2002年に初めて沖縄を訪れた日系アメリカ人四世の著者は、太平洋戦争の激戦地をたどるツアーに参加し、北(ちゃ)谷(たん)町のショッピングエリア「アメリカンビレッジ」で夜を過ごす。凄惨な戦禍が刻まれた土地でアメリカ的なリゾートタウンが親しまれていることに興味を抱く。〈沖縄がいかなる経緯で今の姿になったのか、ふいに私は知りたくなった〉。

 著者はその後日本へ留学、沖縄に滞在するなどして、さまざまな人々の話を聞いて歩く。アメリカ人との結婚に憧れる「アメジョ」のイヴ、米軍将校の妻アシュリー、フィリピンから出稼ぎに来たホステスのデイジー……。日米関係や複数の文化が融合する沖縄史を参照しながら、彼女たちそれぞれの置かれている社会的状況に的確な分析が加えられる。結果、記された言葉の一つ一つが腑に落ちる。

 たとえば、こんなセリフ。「誰かの利益のために、私たちはお互いに闘うよう強いられている」。抜き出せば、活動家のプロパガンダのように聞こえるかもしれない。でも、家族がみんな基地反対派なのに基地で働いているナオミの口から出ると響きが違う。両親は仕事を辞めさせようとしたし、おばには皮肉を言われる。ついこぼれた本音は、切実だ。

〈基地に賛成か反対かといった議論の性格が人々を二極化させ、取り残されたあいまいな領域、グレーゾーンで生きる人々を沈黙させる〉

 米軍専用施設の面積は沖縄本島の約15%を占める。矛盾に満ちた、いびつな状況なのは間違いない。ただし著者は、一足飛びにその是非を問うことはしない。軍隊の存在に一般市民が「慣れてしまった」基地の島で、ものを言えなくなり、口を閉ざしてしまった人たちがいる。そういう「語られるべき沈黙」や「小さな声」に耳を傾ける。

 なぜなら、対話に必要なのは〈単純化された幻想ではなく、厄介な現実〉だからと。ほんとにその通り。

新潮社 週刊新潮
2021年11月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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