『我が友、スミス』
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ボディ・ビルと女性らしさ 『我が友、スミス』
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
スミスとは「スミス・マシン」。筋肉のトレーニング・マシンの名称だ。バーベルの左右にレールが付いて軌道を補助するため、比較的安全に使える。一年と三か月前から体を鍛え始めたU野は入社七年目で二十九歳の女性会社員だ。このスミスやダンベルで自己流の筋トレのためジム通いを続けていた。
ある土曜日、O島という女性ボディ・ビルダーに声を掛けられる。四十八歳の今は現役を引退してトレーナーとして活動しており、近くパーソナル・ジムを立ち上げ、大会に出場する選手を探していた。ひとり黙々とトレーニングするU野に可能性を見出しスカウトしたのだ。大会に出場すれば入会金や月会費が割引になると聞き、O島が開くNジムに通うことに決めた。
そこからU野は週七でジムに通いパーソナルトレーニングを受け、自主トレにも集中する。女性が筋肉をつけることに対して一家言あるO島の薫陶を受け彼女の体はみるみる変わっていった。
だが大会出場を間近に控えたある時から、U野には疑問が生じてきた。それは大会出場のためのステージングをコーチする元ミス・ユニバースのE藤から指示を受けてからだ。
「あなたが考えているより、この競技は、ずっとクラシックなのよ」
クラシックの意味とは何か。過酷なトレーニングと女性らしい身だしなみを整えることは両立しなければならないことなのか。自分が望むことは本当にこのやり方で実現できるのか。
こんなにストイックな小説を読んだことがあったろうか。だがどこかで私にも囁く声が聞こえる。世間の常識を疑え、ぶち壊せ。痛快だ。