『エレジー』
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失わなかった人たち 赤松利市
[レビュアー] 赤松利市(作家)
この物語はバブル景気を舞台にした物語です。
とはいえ、もはやバブル景気を知らない世代も多くなりました。知る人も知らない人も、バブル景気と聞いて思い出す光景は何でしょう?
ジュリアナ東京。
ジュリ扇を振り振りし、お立ち台でワンレン・ボディコンの女性が踊る景色ではないでしょうか。
しかし違うのです。ジュリアナ東京が開店した時点より前に、バブル景気は終焉を迎えていたのです。
私ははっきりと覚えています。
当時私は東京大手町に勤務するサラリーマンでした。多くの同僚たちがバブル景気に乗り遅れまいと、株式投資や不動産投資に金を注ぎ込んでいました。そんな彼らが顔面蒼白になる姿をはっきりと覚えているのです。自己資金ではない、銀行からの借り入れで投資していたのですから当然でしょう。
その一方で、バブル景気の恩恵とはまったく無縁であった多くの幸運な人たちは、依然バブル景気が続いているとボンヤリと感じていたようです。
この物語はバブル景気以降の、まだ世間がバブル景気の終焉を認識していなかった時代を主な舞台にしております。バブル景気の終焉とともに、その後『失われた十年』と呼ばれる時代が始まりました。十年が二十年になり、それが三十年となっても日本の『失われた時代』は続いています。
そんな時代にあって、失い掛けたけれども失わなかった、そんな人たちが登場人物です。
なぜ彼らは失わなかったのか。
それを問い掛ける物語です。
正規雇用から非正規雇用へと雇用形態の主流が様変わりし、相対的貧困層の増加に歯止めが利かない現代にあって、小石を投じられることを祈って書いた物語です。