『中世奥羽の世界(新装版)』
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<東北の本棚>地方の視点で歴史検証
[レビュアー] 河北新報
地方からの視点で奥羽の中世を再現した1978年の名著が復刊された。安倍氏の奥六郡(現在の岩手県内陸部)の支配から豊臣秀吉の奥羽仕置まで東北の中世社会を多角的に検証。豊富な資料を基にした論考は初刊行から44年たった今も輝きを放つ。
執筆者は、元東北学院大教授の大石直正、東北大名誉教授の入間田宣夫、宮城教育大名誉教授の遠藤巌、福島大名誉教授の伊藤喜良、元福島大教授の小林清治、元立教大教授の藤木久志の各氏。
大石氏の「中世の黎明(れいめい)」では、奥州藤原氏の権力は、蝦夷社会の内側から自生的に発展した結果ではなく、国家から蝦夷の支配を委ねられて生み出されたという遠藤氏の説を支持。安倍、清原、奥州藤原氏が出身にかかわらず、「俘囚(ふしゅう)」「東夷(とうい)の酋長」などと呼ばれたのは蝦夷の統率者として意識付けられていたためだったとみる。
入間田氏は「鎌倉幕府と奥羽両国」で、源頼朝が奥州藤原氏を撃破した軍事行動について、それまで使われていた「奥州征伐」ではなく、「奥州合戦」と呼ぶように提案した。「征伐」は奥羽の人々からすれば侵略行動にほかならないためだ。合戦以降、鎌倉時代を通じ奥羽両国は関東の植民地ともいうべき状態に置かれたと指摘する。
このほか、南北朝、室町時代の政治組織、大名権力の構造についての論考が並ぶ。中でも、伊達政宗ら大名が秀吉の朝鮮出兵で全国統一に組み込まれる様子を詳述した藤木氏の「中世奥羽の終末」が興味深い。
柳原敏昭東北大大学院教授の解説によると、本書は70年代後半に盛んになった地域史研究の先導役を果たしたという。今は「奥州合戦」という呼称も定着した。多くの人に手に取って自分が住む地域に思いを巡らせてほしい。(裕)
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吉川弘文館03(3813)9151=3300円。