ヒトの弱さを引き受ける独学者への最新の読書法

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現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全

『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』

著者
佐々木 俊尚 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784492046869
発売日
2022/01/28
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ヒトの弱さを引き受ける独学者への最新の読書法

[レビュアー] 読書猿(独学者)

 明治から現代まで150年間の独学書の歴史について書いた文章をちょうど脱稿したところに、この書評の話をいただいた。これまで独学者の多くは本を読む者であった。教え導く者を得られない独学者は、自ら探しもとめた教材その他の書物を読む以外に学ぶ方法がなかったから、読書論は独学者にとって強い関心事だった。そして本書、『読む力』は今年1月に出たばかりの読書論の最新版である。

 著者の佐々木氏は本書冒頭で、専門の知的トレーニングを受けたわけでも、知的に恵まれた環境で育ったわけでもない、と述懐する。むしろどちらとも縁遠い人生を歩んできたという。一言で言えば、我々と同じ凡人の一人である。そうした人が、どのように「知」に向かい合うこととなり、失敗と工夫を重ねて、読む技を練り上げていったのかに、私は一人の独学者として関心がある。加えて、佐々木氏がそうして磨いてきた技を駆使して活動している「現場」が、どこかの異国でも、時代を隔てた昔でもなく、誰もが手にする携帯端末からネットワークに接続し、SNSで情報発信し合うような《今ここ》であるから、なおさら興味を引く。

 本書では、佐々木氏オリジナルの読書術、知的生産術が数多く開陳される。そのどれもが、飽きっぽく一つのことに専念して作業を続けられない、記憶力も弱く、様々な認知バイアスにとらわれる、弱点ばかりのヒトという生き物が抱える多くの制約を痛いほど引き受け、その上で実行可能なささやかな行為を一つ一つ積み上げ、組み合わせて、作り上げられたものである。

 そもそも何かを知りたいと思い行動すること、知に向かい合うことは、何かの資格が要求されることではない。生まれ育った環境にも周囲の理解にも恵まれなくても、大学の研究室でトレーニングを重ねなくても、我々は知りたいと思った瞬間、すでに知の中に飛び込んでいる。

 もちろん、悪しき道へ迷い込む危険は常にある。我々が触れているネット環境は、自由な善人だけが住まう理想郷ではない。デマと偏見、誹謗中傷とヘイトが常在する魔境だ。そこにはどんな危険があるか、いかにして危険を回避できるかについても、現代の読書論である本書は、多くの紙面を割いている。ヒトの弱さから始め、ネットを現場の一つとする著者は、その闇を看過することができないのだ。

 こうして最新の読書法が我々に届けられた。次はこの「巨人の肩の上」に立ち、あなたが工夫を重ねていく番だ。

新潮社 週刊新潮
2022年4月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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