『指示なしで動くチームの作り方』
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ひとりだけ残業を拒む部下の理由と上司が取るべき対応は? タイプ別マネジメントのコツ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
会社からは「いまのチームでとにかく数字を達成しろ」といわれ、その一方、なにを考えているのかわからない部下の扱いにも困ってしまっている…。そんな上司は少なくないかもしれません。
『売上を2倍にする 指示なしで動くチームの作り方』(吉野 創 著、ぱる出版)の著者も、コンサルティングファームで支社長をしていたころ、日々プレッシャーにさらされながら、売上を上げることに執着していたのだそうです。
ところが、売上を部下に求め、行動を指示するほどに、組織はバラバラになって優秀な社員は会社を去ることに。
いかにも大変そうですが、そうした実体験、そして現在、経営コンサルタントとしてさまざまな企業支援をするなかで重要なことに気づいたのだといいます。
それは、社員の「働く目的」を上司が理解し、それに沿った働き方を大切にできるように応援すると、社員は上司やチームの目的を大切にしてくれる、ということです。
そのためにはまず、上司が勘違いしていることを認識しなければなりません。(「はじめに」より)
約8割の部下は会社ではなく、「自分」のことを考えているものだそう。自らの意志で自分のためには働いても、会社のためには働かないということです。
しかしそれは、部下の「働く目的」を大事にしてあげれば、自らの意思で働いてくれるようになるということでもあるはず。その結果、次第に一体感のあるチームに変わっていくことも期待できるでしょう。
そこで本書では、上司な指示をしなくても動いてくれるチームをつくるためのコツを明かしているのです。きょうはそのなかから、第3章「『時間が大事』な部下への寄り添い方」に焦点を当ててみたいと思います。
問題の原因は、個人によって違う「仕事時間」の使い方
「仕事の時間」についての考え方はさまざま。「仕事の時間はしっかり働き、なるべく残業なく定時で終わらせよう。そのために進め方を工夫し、自分や仲間のスキルも高めていこう」と考える方が多かったとしても、同じように考えるメンバーばかりではないわけです。したがってメンバーの考え方の差が激しいと、マイナス要素が発生することにもなるでしょう。
例えば、こんな事例がありました。
ある時、予期していなかった大口案件が飛び込んできました。
これを受注して、納期までに納品できれば、今期の目標がクリアできる。そのような状況でした。
ただ、そのためには、メンバーが相当な時間残業をして、場合によっては休日出勤もしなければ、到底間に合いません。
この案件を受けるか否か、決断を躊躇していては他社に回されてしまいます。
部署のリーダーは、メンバーに諮ることにしました。(96ページより)
最終的には、みんなで協力してこの大口案件を受注しよう、残業や休日出勤覚悟で取り組もうということになったといいます。ただしAさんだけは、「私は残業はできません」と最後まで頑なに拒否していたのだそうです。
リーダーも「残業を強制することはできない」と発言し、Aさんの仕事への姿勢をなんとなくわかっていた仲間も、「もうAさんはしようがない」と諦めムードに。
その結果、ほとんどのメンバーが連日残業で取り組んでいくなか、Aさんだけが定時で帰るという状態が続いたのだとか。
こんなケースの場合、Aさんの発言や姿勢に疑問を感じる方は少なくないことでしょう。しかし著者によれば、Aさんには別の考えが明確にあったというのです。それは、チームメンバーの時間の使い方に対する不信感。
「普段からもっと段取りを考えてやっていれば、今期の目標も早くクリアできた」
「各メンバーが個人でスキルアップの努力をし、チームでの生産性を高めていくべきなのに、なぜその努力をしないのか」
「今回の大口案件だって、普段からスキルアップと効率化への努力を本気でやっていれば、残業や休日出勤などしなくてもできたはず」
というようにAさんは普段から、メンバーの仕事に対する姿勢に不満を感じていたわけです。時間を大切にするAさんからすると、違和感だらけだったということ。
さらに、職場にはさまざまな作業や役割がありましたが、自分ができる作業の種類を増やすと、「仕事で損をしてしまう」と考えているメンバーが多かったのです。
そんなメンバーが、考え方を変えて意識を高く持ち、普段から努力してスキルを身につけていれば、もっと仕事の段取りが効率化できることは明確でした。(98ページより)
生産性が上がらない理由はそこにあるのだとAさんが進言しても、角が立つことを恐れるリーダーは腰を上げず、Aさんはますますチームに不信感を抱くことに。
会社やチームのためによかれと思ってスキルアップの努力を重ねていたAさんだけが、損をしているような形になってしまったわけです。
そのため、チームとしてその大口案件に取り組み、目標を達成することはできたものの、チームメンバーとAさんとの溝は深まるばかり。しかも、チームは今期で終わりではありません。今期はよくても、来期はどうするのかといったことを本質的に考え、チームをサポートすることがリーダーにとって必要だということ。(95ページより)
生産性の意識が高くなれば、時間内で結果を出そうとする
ちなみに残業をしないAさんには、深い事情があったのだそうです。
配偶者の仕事が変わって、今まで任せていた親の介護を、Aさん自身が行う必要が出てきたのです。
ただ、Aさんはこの事情を、信頼できないメンバーに打ち明けることに抵抗がありました。
もともとプライベートなことは全く話していないという背景もありました。
そんなことを話す時間があれば、もっと仕事をしよう、生産性を高めよう、仕事を前に進めようと思っていたからです。(100〜101ページより)
ところがそのぶんメンバーとの意思疎通にかける時間が減り、互いを理解する時間がなくなり、仕事に対しての互いの主義主張がぶつかり合うという構造になっていたのです。
だとすればリーダーはこういう場合、各メンバーが人間関係と生産性のどちらに重点を置いているのかを見抜かなければならないわけです。
Aさんのように「時間を大切にする人材」が「自分の時間だけ」を大切にするような状態になってしまうかどうかは、周囲の働きかけ方や寄り添い方次第でもあるといえるのでしょう。(100ページより)
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部下の「働く目的」は大きく、「お金が大事」「自分の時間が大事」「キャリアが大事」の3タイプに分けられるそうです。
そこで本書では、それぞれのタイプ別の部下への接し方がまとめられています。それらのメソッドを活用すれば、部下やチームのパフォーマンスを向上させることができるかもしれません。
Source: ぱる出版