昭和の名女優で、文筆にもたけ、多数の著書がある著者。本書は平成3年に刊行され、3度目の文庫化だが、80歳を超えて女優を引退し、海の見える湘南のマンションで暮らす夫との日々と来し方への思いがつづられ、味わい深い。
「人はひとりでは生きられない」が、「人づきあいというのは、ほどほどに限る」―。その「ほどほど」が絶妙で、下町育ちゆえの〝粋〟を感じさせる。
「ずいぶん永く生きてきたけれど―私は一体、何をしたかしら…」など、年を重ねると響く言葉も多い。単行本の担当編集者による巻末エッセーもしみる。(沢村貞子著、中公文庫・814円)
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2022年5月29日 掲載
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