作家・林泰広が亡き父へ綴った完成報告 長編第3作となるミステリ小説『魔物が書いた理屈っぽいラヴレター』
レビュー
『魔物が書いた理屈っぽいラヴレター』
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完成報告 『魔物が書いた理屈っぽいラヴレター』著者新刊エッセイ 林泰広
[レビュアー] 林泰広(作家)
デビューしてから3作目の長編となる『魔物が書いた理屈っぽいラヴレター』を刊行した林泰広が、亡き父へ綴った完成報告を紹介します。
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著者校正のゲラが届いた日の夜に、入院中だった父が亡くなりました。
父は「頑張る人」でした。
自分で決めた目標は、パワーと忍耐でなんとしてでもやり遂げることに喜びを感じる人でした。
そういう頑固で一徹なところはいかにも「九州男児」っぽいと言えるのかもしれませんが、その一方で単身赴任生活が長かったので、料理も洗濯も自分のことはなんでも自分で出来るし、また、自分でやりたがる人でした。
だから今年になって急に体調が悪化し、それで入退院を繰り返すたびに、前は当たり前に出来ていたことがどんどん出来なくなっていったのは、本当に悔しくて、もどかしくて、腹立たしくて、悲しかったと思います。
父の病気は心不全でした。
正常な心臓の二割ほどの馬力になってしまっていたので、父の心臓は常にフルパワーで動き続ける必要がありました。だから安静にしている時でも、父は私たちが全力疾走をしている時のような状態だったそうです。
夜ベッドに付き添っていると、本当にずっと苦しそうに息をしていました。私だったらそんな全力疾走のマラソンは、早い段階で走るのを諦めてしまっていたと思います。しかし父は最後まで投げ出さず、何度も何度も危険な状態を乗り越えました。本当に凄かったと思います。
父は全力疾走のまま、行けるところまで走り切ったのだと思います。だからゆっくり休んでほしいです。
入院が決まるたびに、父はそれが私の執筆の邪魔になることを心配していました。
もしかしたらまだ心配しているかもしれませんね。
大丈夫だよ。
ほら、ちゃんと完成したよ。