『よしりん御伽草子』
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「コンプライアンス」への挑戦
[レビュアー] 小林よしのり(漫画家)
祖先が残してくれたはずの昔話は、今はもう原型を留めていません。
残酷な場面、戦争を想起する場面、カニバリズムな描写、すべてがコンプライアンスという自主規制に従って削除され、無難で平和な話に修正されています。
あろうことか、「道徳・教訓話」と成り果てた昔話しか読んだことがない子供たちが、大人になってしまったのです。
日本人のデオドラント化、畜群化は徹底的に進み、まるで保育器で育ったような無毒な大人たちが、コロナ禍を作り出し、世界一臆病な国民をねつ造してしまいました。
わしが初めて昔話に接したのは、祖母から布団の中で聞かされた「ばば汁子守歌」です。
タヌキが婆(ばあ)さんを殺して、煮込み汁にして、爺(じい)さんに食わせるという話を、祖母が子守歌で聴かせてくれました。
「あ~の じじが ばば食った♪
モーチゃあ 食うちゃあ おーらんぞい♪」
子供だったわしはその衝撃的な光景に寝付けなくなってしまうのに、わしの祖母は歌いながら先に眠ってしまっていたものです。
この昔話が、あの有名な「かちかち山」の出だしだったことは、後に知りました。
この度、光文社から上梓(じようし)した『よしりん御伽草子(おとぎぞうし)』は昨今の「コンプライアンス」という「自主規制」への挑戦です。6本の絵本を収録していますが、その1本が、この「ばば汁子守歌」なので、「かちかち山」の原型をご存知ない方はぜひ読んでもらいたい。
自分の記憶する昔話が、原型か、無毒化されたウソ話か、確認して、祖先の感性を甦(よみがえ)らせることも大事でしょう。