昭和・平成・令和の風俗を取り込み、ルッキズムの疑問と不安を描く問題作!

エッセイ

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悪口と幸せ

『悪口と幸せ』

著者
姫野カオルコ [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915186
発売日
2023/03/23
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ナニ小説なのかわからない

[レビュアー] 姫野カオルコ(作家)

 桃の花が咲くころに新刊が出る。ブックカバーは、桃の花の色に枝の色を混ぜたような色を基調にしている……のだが、ロマンチックな仕上がりではなく、見る人を不安にする仕上がりになっている。ふたりの子供だろうか、うっすらとシルエットが浮かび、ヘナヘナした模様で囲まれているのが不穏だし、あちこち焦げているのもきしょく悪い。なのに見つめてしまう。

 このカバーの妙な甘みは、他人の悪口を聞くときに(言うのではなく)、人がおぼえるひそかな快感なのだろうか。新刊のタイトルは、『悪口と幸せ』。

 火、文字、羅針盤、電気、車。人は徐々に便利なものを手にいれてきた。だが、「自分の正体がばれないところから、他人の悪口を言いふらす」という甘い悦楽は、悪魔からのプレゼントであろうという思いを根底に、この連作を仕上げた。

 ある人間のことを、憎んでいるわけではなく、嫌いなわけでもなく、けれどどこかなにかがイヤ。これは人が人と接しているかぎりわく感情だ。歯のあいだに何かカスがはさまったような噛み切れない感情、いや、かんじょうというより「かんしょく」。これは他人と他人よりも、肉親間でこそわく。血がつながっているからこそやっかいだ。

 ただし、こうしたやっかいなものを抱えていないのはありえないとしても、きわめて少ない家も、ちゃんと世の中にはあるわけで、「育ちがよい」とは、こういう家に育った人のことだと私は思うのである。名家とは、そんな家のことだと。

『悪口と幸せ』は百枚ほどの中編四作から成っている。登場人物の立場や職業は、王女であったり王妃であったり女優であったりモデルであったりするが、四作ともに、だれかがどこかに重なって出てくる連作である。

 推理小説、恋愛小説、時代小説、青春小説、等々、分類できればいいのだが、ナニ小説と言えばいいのか、自分でもわからない。

光文社 小説宝石
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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