『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』斎藤淳子著(ちくま新書)

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シン・中国人

『シン・中国人』

著者
斎藤 淳子 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480075383
発売日
2023/02/09
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』斎藤淳子著(ちくま新書)

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

成長の渦「無理ゲー」生活

 隣人はちょっと不思議。なんでそれを?とか、どういう理由で?と、首を傾(かし)げることも多い。きっと向こうも同じようにうちのことを、不思議だったり、理解しにくいと思っていたりするのかも。そう思っていた近くて遠い中国のことを、この本でずいぶん理解できた気がする。

 とにかくスピード感と規模感がすごい。日本が100年かけて歩いてきた道を、40年で駆け抜けた。1978年の改革開放で、世界が180度転換した。祖父母、親、子供のジェネレーションギャップがすさまじく、経済感覚、恋愛や仕事に対する考え方、全てに捻(ねじ)れが生じている。最も顕著に変化したのが、結婚かもしれない。革命のため、国のためのものだった時代を経て、結婚はファミリービジネス、両家の合弁事業となった。一人っ子政策による男女の偏りもあり、男性側には年収の10倍以上の結納金、北京戸籍、学歴、数億円のマンションというハードルが課せられる。いわゆる無理ゲー(とてもクリアできない難易度のゲーム)だ。

 ここ数年の流行語に社会の相が見事に表れている。「焦慮」。海外移住に逃げ道を見いだすという意味で使われる「潤」。上に行くため、その場に止(とど)まるために、絶望感を抱えながらも必死で走り続けるしかない「内巻」。画一化された美の基準で採点される「顔値」。ドラスティックに変化する社会に適応できず、その全てに背を向ける「●平(寝そべり族)」。

 北京在住26年の著者が描き出すお隣の人々の生活は、想像以上の激流だった。だからおばあちゃん、お母さん、娘さん、それぞれに対する印象がかくも違うのか。

 シン・シン・中国人は果たしてどうなっていくのか。踊り場にさしかかった経済成長、コロナ禍、思いもかけない世界情勢の変化。新しい大波をどう乗り越えていくのか、隣人の家を心配しつつ、我が家も人ごとではないよなぁ、とため息をついた。

読売新聞
2023年5月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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