報道に使われがちな卑怯かつ底の浅い文言とは? 作家・中山七里が胡散臭いと思うやり方を指摘

エッセイ

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能面検事の死闘

『能面検事の死闘』

著者
中山七里 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334915322
発売日
2023/05/24
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

胡散臭(うさんくさ)いぞ、エクスキューズ

[レビュアー] 中山七里(小説家)

 新刊『能面検事の死闘』は所謂(いわゆる)〈無敵の人〉による無差別殺人を取り上げている。プロットができたのは今から三年も前だが、単行本化までの間に現実の世界でも似たような事件がずいぶんと起きてしまった。

 こうした事件が発生すると新聞の社説をはじめ、著名人や市井の人々が口々に語りだす。

「犯人を擁護するつもりはないが」

「テロや暗殺などが許されないのは当然だとして」

 便利なのは、こういうエクスキューズ(弁明)さえ付ければ犯人の擁護どころかテロの容認まで言いたい放題書きたい放題という点だ。冒頭で予防線を張っておけば「自分は決して反社会的な主張をしているのではありませんよ」と弁解できる。しかし本当に犯人を擁護したり犯罪を容認したりするつもりがないのであれば、その後の文章は全て蛇足でしかない。察するに本来の主張を批判されたくないために、最低限の倫理を免罪符代わりに拝借しているだけなのではないか。そんなに批判されたくないのなら最初から書かなきゃいいのに、誰かの共感を得たいとでも思っているのだろうか。まことに卑怯かつ底の浅い文言であり、僕はこういう文章が大好きなので見つけ次第印刷してファイリングするようにしている。

 何故こんな皮肉をつらつら書いているかと言えば本作の内容に関わってくるからである。〈無敵の人〉の起こした事件を世間がどう扱い、またその事件がどんな風に波及していくのかを描いたつもりなのだが、さて上手く書けただろうか。読者の皆様には、是非お手に取って確かめていただきたい。

光文社 小説宝石
2023年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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