『秋山善吉工務店』
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ムチャぶり光文社――『秋山善吉工務店』刊行エッセイ 中山七里
[レビュアー] 中山七里(小説家)
ご存じの方もおられるだろうが、僕はオファーをいただいた際、担当編集者さんからリクエストを聞くことにしている。求められてもいないものを書くのは、寿司屋を訪れた客にスパゲッティを出すようなものだからだ(もっともそのスパゲッティが三ツ星評価を獲得できる代物なら話は別なのだけれど)。
本作『秋山善吉工務店』もその例に洩れず、編集者さんの要望を聞くべく打ち合わせ場所で待機していた。ところがそこに現れたのは編集長K氏・単行本担当者S氏・文芸誌連載担当者M女史の三人。まあともかくリクエストを、と話し掛けたところ、お三方が一斉に羅列し始めた。
「アットホームな家族もので」
「スリリングで」
「キャラでスピンオフが作れるような」
「社会問題を提起し」
「もちろんミステリーで」
「読後感が爽やかで」
「どんでん返しは必須」
その他含めて九つほどのリクエストを頂戴したのだが、いったいそれはどんな小説なのだろうと少し頭痛がした。しかしこちらは所詮下請け、クライアントの注文を拒む訳にもいかず、三日三晩呻吟した挙句に何とかプロットを拵(こしら)えた。めでたく一発OKをもらったのだが、これほど難渋したプロットは後にも先にもこれっきりだ。
後日S氏に面会する機会があったのでプロット作成に苦心した旨を告げると、S氏は呆れるようにこう言った。
「えっ、あの九つ全部網羅しちゃったの? どれか一つだけでよかったのに」
早く言ってほしい。
ともあれ、そういう成立過程なので色んな要素がみっちり詰め込まれている。文句がある方は光文社へどうぞ。