40歳で老害!? TikTokを開発した中国のIT企業「バイトダンス」の実態とは? 労働環境や成長戦略などに迫る

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世界を席巻するTikTok。中国発SNSはどのようにして開発され、広がったのか? 謎に包まれた新興テック企業の世界戦略に迫る!

[レビュアー] 村山寿美子(翻訳者)


中国IT企業の実態とは?(写真はイメージ)

ダウンロード数35億、年間売上10兆円超。
アメリカ・シリコンバレー製ではない、中国発アプリが初めて世界を席巻している。

なぜ、中国のテック企業が世界中を熱狂させるアプリを開発できたのか?
なぜ、GAFAを凌ぐ勢いで成長し続けているのか?
しかし、TikTok人気とは反対に、このアプリを生んだ「バイトダンス」の経営については、あまり知られていない。

このテック企業の実態に迫ったノンフィクション『最強AI TikTokが世界を呑み込む』の翻訳を手がけた村山寿美子氏に、TikTokというアプリの台頭から何が見えるのか、あらためて本書について語っていただいた。

■ダウンロード数は35億超、中国初のグローバルアプリ

「中国がハイテク分野でこんなに進んでいるなんて、知らなかった」。これが、私が本書を読んだときの最初の印象です。

 もちろん「ティックトック」という名前は知っていましたし、視聴したこともあります。しかし、このアプリの使い方や特徴以外について、特に、その開発や運営を行っている企業「バイトダンス」についてはほとんど知りませんでした。本書に関わるにあたって、バイトダンスについていろいろと調べましたが、この企業の経営などの実態や経営者に関する情報は、アプリのその知名度に比して驚くほど少ないものでした。

 本書は、そんな謎に包まれたグローバルIT企業の実態に迫ろうとするノンフィクションです。

 ティックトックは、「若者に人気のエンタメアプリ」という漠然としたイメージを持っていましたが、世界に目を向けると、今や150か国以上でダウンロードされ、ダウンロード数は累計35億回を超え、月間アクティブユーザーは約10億人ともいわれています。ダウンロード数35億を突破したアプリは、アメリカのMeta社製以外では初めてのことです。

 2022年のアメリカでの成人を対象とした調査では、1日あたりのSNS利用時間で長年1位だったユーチューブを超え、首位に立ちました。また近年、注目を集めるネットフリックスとの比較においても、グローバルの累計視聴時間では2倍以上の差をつけている、というデータもあります。

 なぜこのアプリが急速に世界に広まったのか、本書ではその要因を明確に二つ挙げています。動画の長さと、動画を提供する際のアルゴリズムです。

 なお、マサチューセッツ工科大学(MIT)の科学情報誌「MITテクノロジーレビュー」では、2021年度「世界を変える10大テクノロジー」に「新型コロナウイルスワクチン」とともに「ティックトックの“おすすめ”アルゴリズム」が選ばれており、AI搭載アプリという際立った特徴は世界で注目を集めています。

■アメリカ製SNSを凌ぐ急成長

 一方、その運営企業に注目すると、ジャン・イーミンがバイトダンスを創業したのは2012年。たった10年ちょっとの歩みで、この世界的な成功を収めたのは、類を見ないほどの勢いと言えます。企業評価額は3,000億ドルに迫り、世界のユニコーンランキングではダントツの1位を誇りました。実際、2018年以降はダウンロード数1位を保持しつづけており、2022年の売上高は800億ドルを超える急激な右肩上がりを見せ、その勢いはアメリカのSNSと比較しても顕著で、とどまることを知りません。

 そんな状況からすると、本書は満を持して語られる「バイトダンス」のサクセスストーリーなのだろう、と考えられるかもしれません。これまでにも人気を博した、アップルやグーグル、フェイスブックのような、若者による起業物語なのか、と。

 しかし、そうではありません。その理由は、このSNSがアメリカ・シリコンバレー製ではなく、世界を席巻した初めての中国製アプリだからです。その運営が中国企業だからです。

 この人気の勢いは、まもなく西側諸国とのトラブルを引き起こしました。SNSアプリとしての世界的な展開は無視できないものとなり、いつしか政治問題へと発展していきます。今年に入っても、3月には、ショウ・ジ・チュウCEOがアメリカの公聴会に呼ばれ、自由や人権、革新といったアメリカ的価値観を尊重しているかを問われるなど、現在も一企業とアメリカ政府との激しい攻防は続いています。

 これがアメリカ企業のアプリであったなら、また新たな起業物語としてその一つに加えられていたはずですが、同じような世界的成功を収め、しかもシリコンバレー製をしのぐ急成長を見せるティックトックにおいては、また別の物語が必要となってくるのは当然です。

小学館集英社プロダクション
2023年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館集英社プロダクション

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