『トウキョウマンション』
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法律に守られない人を守るには
[レビュアー] 石川智健(作家)
ロシアによるウクライナ侵攻が始まったのは『トウキョウマンション』を二百枚ほど書いた頃だった。当初、この作品は“法律で守られない人々が、治外法権であるマンション内で生きていく物語”にしようと思っていた。
二〇二二年二月二四日。この日以降、侵攻のニュースを連日見聞きし、さまざまな意見を調べた。戦争では善も悪もなく、混沌としており、結果としてすべてが悪になるという見方もある。これは大人が大人を評するものだ。
善悪の尺度の外に、一方的な悪意にさらされて犠牲になる存在がいる。それが子供だ。身勝手な大人によって犠牲になる子供は、ただひたすらに犠牲者である。
ロシアは、国連憲章二条四項の“すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない”という条約(法律)に違反している。
ロシアの侵攻を世界は批難した。しかし、それぞれの立場や利害関係によって批難の度合いはまちまちで、今もなお戦争は続いている。
『トウキョウマンション』には、非合法の方法で生きている人々が多く登場する。子供たちも登場する。法律を守って生きることができる人たちからすれば、彼らは治安を乱す忌むべき存在として映るだろう。感情移入できないかもしれない。
法律を破らなければ生きることができないと考える人々を、それでも罰するのが法律だ。ただ、善悪が曖昧になった世界で、今や、法律すら揺らいでいる。
戦争という蛮行が起きて一年が過ぎた。
正義があるのだろう。ただ、その身勝手な正義によって犠牲になっている人々がたしかに存在している。
当然それは、戦争に限ったことではない。